第68話 キュティ、邪神の祭壇に震える
「「「じゃ、邪神の祭壇……」」」
震えながら立ち尽くす面々に気づいたキッポンは、フィギュア作りの手を休め、ぷるんと三人の前にやってきた。
「おはよー。ねえねえ、すごいでしょ! 二人で作ったんだよね!」
感動のあまり震えているものだと思い込んだキッポンは、えへんと胸を張る。
「す、すごいね……」
「すごいですね……」
「お、おう。すげえな……」
すごく禍々しいですね、と言いたくなるところを三人はなんとか飲み込む。
三人がこんな感想を持つのも無理はない。何しろ不調和なのだ。職人であるボリングの目から見ても最高レベルの精緻な彫像もあれば、一方で一体何をかたどったのかもわからない奇怪としか言いようのない物体もある。
モチーフがわかるものに限っても、人間から古今の魔物、由来こそまったくわからないが実在を信じさせる造型のものもいくつも並んでいた。その隙間を、狂人の夢を具現化したような異形が埋めている。
そこはまるで、暇つぶしに生き物を創造しようとした邪神の実験場のような有様だったのだ。
「オー! キッポンさん、お友達ですカ?」
「「「ひっ」」」
そこににゅるりとオレンジ色の半透明が現れ、三人はびくっと身体を跳ねさせた。
色からするとマナイーターだが、大きさが異常だ。キッポン並みの巨大さである。
おまけに――
「マナイーターまでしゃべりやがった……」
「上手いでしょ。あれこれ作りながらこっちの言葉を教えたんだ」
得意げに語るキッポンの言葉だが、ボリングの耳には届いていない。
前代未聞の人語を解するスライムの二匹目である。
それも、キッポンが恐れるほどの力を持つ存在。
ボリングのこめかみに、つつーと冷たい汗が流れる。
「キ、キッポン殿。こちらの御方はどちら様でしょうか……?」
「うん、彼はアメリカ人でね。なんて説明したらいいかなあ。俺の同郷みたいなもの」
「ア、アメリカ=ディン……!」
ディン、すなわち太古の亜神である。
エルフの古老によれば、その怒りに触れれば光と闇の神々さえ滅ぼすという荒神。
キッポンのみでも手に余るというのに、それが二柱に増えてしまったとでもいうのか。
「ア、アメリカ殿は、その、キッポン殿と何をされていたのでしょうか……?」
「改めてそう聞かれると難しいですネ。うーん、故郷を想い、魂を形にしていたとでも言いましょうカ」
「さすがはアメリカ、いいこと言うね~。ま、いわば創造神の真似事みたいな?」
すっかりクリエイターモードになっていたキッポンは、アメリカ(命名)がジョークめかして口にした言葉に乗っかった。SNSがあればワナビが勘違いするなと笑われること間違いなしの妄言である。
しかし、キュティにとっては冗談で済む話ではない。
(異界の存在を召喚しようとしていた? あるいはゼロから創り出そうとしていた? キッポンが魔術を習得したら、この悪夢のような光景が現実になってしまうかもしれないの……?)
キッポンの魔術習得は何としてでも阻止しなければならない。
キュティは愛用の魔杖を指が白くなるほど握りしめていた。




