第67話 スライム、異世界転生者と出会う
「なるほどねー、日本に来る途中に飛行機の中で心臓麻痺と」
「『お客様の中にお医者様はいませんか?』って本当に言うんですネ。まあ、いなかったわけですけどモ」
HAHAHA、とアメリカンに笑うオレンジ色の半透明。
前世ではアメリカでフィギュアの造形師をしていたそうだ。オタクの聖地日本への初旅行の途中で死に、この世界に転生した。キッポンと同じく自分の名前はおぼえていないそう。
「かき集めていただいて助かりましたヨ。バラバラに引きちぎられてしまって、自我が保てなかったんですよネ」
あまり細かく分断されて最低限の思考能力が失われると、スライムと言えど自我を保てなくなるらしい。キッポンは糸使いセンベイヤーに微塵切りにされたことがあるが、あのときはすぐに合体したから助かったのか。あるいはもともと大したことを考えていなかったのが幸いしたのかもしれない。
「フィギュアかあ。俺も結構持ってたなあ」
「ほほう、どんなのをコレクションされてたのですカ?」
「ええっとねえ――」
キッポンが例に挙げたのは、もちろん例のスライムが大活躍するラノベ関連のグッズである。
するとアメリカン(仮名)も声を弾ませ、
「ワタシも大好きでしたヨ! フィギュアもたくさん作りましタ!」
と、手近な岩を触手で削り出し、見事なスライム(人化状態)の1/8フィギュアを作ってみせる。キッポンが編み出した触手ドリルの技は、アメリカンも使えるようだ。むしろ精密性ではキッポンを上回るだろう。
しかし、キッポンの興味はそんなところにはない。
「す、すげえ……。この髪の質感、躍動感のあるポーズ……。あ、これって4巻の限定特典イラストの衣装じゃん!!」
「HAHAHA! さすがよくご存知ですネ。ではこれは?」
「わんこ大戦争のコラボ衣装! 世界観的にどうかな~って思ってたんだけど、蓋を開けてみたら神ストーリーだったんだよねえ」
「ではこれ!」
「10周年記念の劇場版で登場したモブ雑魚C!」
「これは?」
「学園編で登場した同僚の教師A! キャラデザいいし、名台詞もあるのに、名前すらないモブなんだよね~」
すっかりオタクトークに夢中である。
話し込むうちに、二人の周りにはどんどんフィギュアが増えていく。
「そういえば、俺もフィギュアとか作ってみたかったんだよね。不器用だから諦めちゃったんだけどさ」
キッポンは前世でフィギュアづくりにチャレンジしたことがある。素材や道具を一通り揃え、初めて作ったフィギュアをSNSにアップしたのだが、「邪神乙www」などと心無いコメントをつけられたことで心が折れてしまったのだ。
「キッポンさん、好きを作るのに器用も不器用もありませんヨ。クリエイティブに一番大事なのはパッションです!」
「そ、そうかな?」
「この世界で出会ったのもきっと運命! 一緒にフィギュア作りを楽しみましょウ!」
「わ、わかったぜ!」
こうしてすっかりその気になったキッポンは、思いつく限り様々なフィギュアを創り上げた。アメリカンも自分の作品を作りながら、キッポンが作ったものにいちいち感想をくれる。それもネガティブな批評などではない。
「表情が活き活きとしてますネ!」
「オー! 躍動感のある大胆なポージング!」
「今にも襲いかかってきそうな大迫力デース!」
などとよいところを見つけて褒めてくれるものだから、夢中になってフィギュアを作り続けた。
翌日。
宿から姿を消したキッポンを探して魔石鉱床にやってきたリーフ、キュティ、ボリングは揃ってあんぐりと口を開けた。
「「「じゃ、邪神の祭壇……」」」
昨日までただの坑道だった場所が、大小さまざまな異形の彫像で埋め尽くされていたからだった。




