第63話 『俺はキッポン! 日本人でーす!』
(さあて、どうしようかなあ)
何にも考えていなかったキッポンは、とりあえず前に出て状況を観察した。
マナイーターはくっついたり離れたり、岩の隙間を入ったり出たりしながらうぞうぞと這い回っており、キッポンレーダーをもってしても正確な数を把握できない。
(とりあえず、思いつくことから試してみるかあ)
キッポンは大きく息を吸い込んで、
『こーんにーちはーーーー! 俺はキッポン! 日本人でーす! あっ、名前はこの世界のものでーす! 日本語わかりますかーーーー!?』
日本語で叫んだ。
「えっ、なにっ!?」
「い、いきなりどうしたんですか!? 未知の魔術詠唱!?」
「へえ、これがスライム本来の鳴き声かよ。初めて聞いたが、背筋がぞっとしやがる妙な響きだなあ」
当然、リーフもキュティもボリングも、言葉の意味はわからない。
というより、言語としても認識できていない。
リーフはキッポンと初めて出会った日の恐怖を思い出し、
キュティは異界の魔術詠唱を疑い、
ボリングはスライムとは妙な鳴き声を上げるものなのだなと思った。
『うーん、何の反応もないなあ。じゃあ、英語はどうだろう。アーユーオーケイ? アイアムジャパニーズ、キッポン! アーユースピークイングリッシュ? ニイハオシェイシェイ! ブエナスタルデスアミーゴ! ジュテームマドモワゼル! ナマステジャンボーーーー!!』
思いつく限り、知っている限りの外国語もまくし立ててみる。
ところどころおかしなことになっているが、そのあたりがキッポンという元人間の限界であるのでご容赦いただきたい。
さて、なぜ唐突に地球の言葉で叫びだしたのかといえば、
(もしかしたら、このスライムも異世界転生者かもしれない)
と思ったからだ。
神々との戦いで世界の結界が弱まったとか、もともとあちこちの異世界に遊びに行っているスモスモ族に出会ったことにより、
(そうだ! 転生者は自分だけだと思っていたら、じつは他にもいたっていうのもテンプレだよね! ふふふ、転生者同士、敵になるか味方になるか楽しみだなあ……)
などと考えたわけである。
しかし、肝心のマナイーターに変わった動きは見られない。
相変わらずうぞうぞとそのへんを這い回っているだけである。
「うーん、転生者じゃなかったかあ。おかしいなあ」
「何か予想が外れたんですか……?」
何事か呟いているキッポンに、キュティは恐る恐る疑問をぶつけた。
「いや、俺の仲間かと思ったんだけどさ。どうも違ったみたい」
「な、仲間……」
キュティの背筋が凍る。
この謎のスライムに、同族が存在したのか。
とすると、先程の咆哮は仲間への呼びかけ。
キッポンの力は、魔神王との戦いを通してさえ、まだまだ底が知れていない。
こんな存在が無数に巣食っている異界――
キュティの脳裏が、半透明の不定形が埋め尽くす光景で塗りつぶされる。
(も、もしかしてキッポンが魔術を学びたいと言っているのは、その異界への扉を開くためなのでは……)
キュティが恐ろしい想像に戦慄していた、その一方。
(考えてみたら、人外転生で別の転生者が同族だったってパターンはあんまりないよな。キャラ被りするし)
キッポンは、相変わらずラノベ基準でしょうもないことを考えていた。




