第62話 スライム、鉱山に潜る
「ここが魔石鉱山かあ。きらきら光ってキレイだなあ」
一行は、ボリングの案内でとある坑道を訪れていた。
トロッコと昇降式のゴンドラをいくつも乗り継いでやっとたどり着けるそこは、ドヴェルグ工匠国の最深部。坑道と言っても十人のドワーフが横に並んで歩ける広さで、天井も高い。そして魔石を含んだ床や壁面、天井が星空のように瞬いている。
魔石は様々な魔道具の素材となるため、高値で取引されている。この輝きはそのまま金貨の輝きと考えてもよいくらいだ。
「すごく濃密な魔素ですね。噂に聞いていた以上です」
「なんか肌がぞわぞわするけど、これが大地の魔素なんだ。森とはぜんぜん違うね」
場に満ちる魔素に、キュティとリーフがそれぞれの感想を洩らした。
この付近は魔素濃度が高く、魔術士の修練場としても人気があった。というか、キッポン一行がこの国を訪れたそもそもの目的がここだ。
(うーん、何にも感じないなあ)
一方、キッポンは何も感じていない。アンテナを伸ばしたりもしているが、まったく手応えがなかった。
(やっぱり初心者はちゃんと修行しないとダメか。それか、なんかのフラグを立てる必要があるんだろう)
生物的に魔素の受容細胞が存在しないのだからどうしようもないのだが、そんなことは知らないので的外れの見当を立てている。
「もうすぐ例のスライムが湧く鉱床だ。積極的に襲ってくるような性質はねえが、強力な酸を持ってるから気をつけてくれよ」
ランタン片手に先を行くボリングが注意を促す。
しばらく進むと、景色が一変した。
半透明のオレンジ色をした不定形の物体。無数のそれが、床を、壁を、そしておそらくはランタンの明かりが届かぬ天井にもびっしりと這い回っている。
ひとつひとつの大きさは人間の頭の半分くらいだ。
「こいつらはマナイーター。魔石を喰らうスライムの一種だ」
ボリングは指のように太い釘を一本、手近なマナイーターに投げつけた。
大した勢いではなかったが、太釘はずぼっと根本まで突き刺さる。見た目の印象通り、ゼリーのように柔らかい。だが、とくに苦しむような様子はなく、逆に体内に取り込まれた太釘がぶくぶくと細かい泡を上げて形を失った。
「このとおり、物理攻撃はまず通じねえ。かといって、普段は溶岩の中に住んでるような生き物だ。焼き払うのも無理。氷結魔法なら仮死状態にできるが、地熱で溶けてすぐに復活しちまう」
「電気はどうなんですか?」
「お前の得意だったよな。試してみな」
「雷よ、我が意に応じ、荒ぶる怒りを示せ……ライトニングボルトっ!」
キュティの魔杖から放たれた閃光がマナイーターに直撃。
着弾点を中心に、紫電が凶暴な蛇のように八方に拡散する。
だが、見た目の派手さとは裏腹に、当のマナイーターは何事もなかったようにぷるぷると身を震わせていた。
「なるほどー、導電性が高すぎて電流が素通しになっちゃうのか。普段から鉱石ばっかり食べてるせいかな?」
「そうゆうこった。って、スライムのくせに妙なことに詳しいな。飼い主が教えたのか?」
「う、ううん。キッポンは代々の守護獣だからさ! きっとご先祖様の誰かが教えたんじゃないかなー」
怪訝な顔のボリングに、リーフは慌てて首を横に振る。
ボリングに対しても、キッポンはリーフの一族に伝わる特殊なモンスターということになっていた。その設定を活かし、キッポンが妙なことを口走ったときには、すべて架空の先祖の責任にする構えである。
「それでキッポンさ、本当にこんなスライムなんとかなるの? めちゃくちゃタフそうだけど」
リーフは小声でキッポンに尋ねる。
この場所は本来立入禁止になっているのだが、キッポンが「それなら俺に任せとけっ!」と大口を叩いたのでそれを信じてやってきたのだ。
「うーん、やるだけやってみるよ」
「そんな無責任な……。まあ、実際何の責任もないけどさ」
失敗しても期待外れだったと思われるだけだ。
気分はよくないが、リーフにとってはせいぜいその程度の話である。
しかし、キッポンは違っていた。
(修行場の解放イベント! これを解決すれば魔術スキル習得のフラグが立つはず! 待ってろよ、俺の【天の声】さん!!)
こんな具合で、内心ではバチバチに気合いが入っていたのである。




