第61話 スライム、「犯人はお前だ!」される
「はっはっは、懐かしいなあ。その魔杖、オレが作ったやつだろ? 物持ちのいいやつだなあ」
「手に馴染んじゃったんですよ。他のじゃ調子が出なくって」
「不具合は出てねえか? 必要なら調整すっけど」
「あー、ここの発振子の共鳴がちょっとだけ、ぎこちなくなってるんですよね」
あれから間もなくキッポン一行は解放された。
キュティとボリングは「叡智の塔」と呼ばれる魔術士向け教育機関の同窓生で、魔道具の共同開発などを行っていたらしい。いつも硬いキュティの口調がすっかり砕けているあたり、相当仲がよかったのだろう。
そして、そのまま近場の居酒屋に入っている。
この街の建物は岩山を掘り抜いて作られているのだが、床も壁も滑らかに仕上がっていて、照明も十分。風通しもよく、地下にいる閉塞感などまったく感じなかった。
(新宿の地下街なんかよりもよっぽど快適だなあ。それにしても、キュティの知り合いがいて助かった。変な濡れ衣を着せられたままじゃ、おちおち観光もできないよ)
キッポンはテーブルに並んだ料理を肴に、ジョッキの酒を傾けている。
人型に変型して料理や酒を味わうスライムに、店員や他の客がぎょっとしていたが、ここは世界中から人々が集まる交易国家ドヴェルグ工匠国だ。広い世の中そういうこともあろうかと、それぞれ五度見くらいしたら慣れた。その後もちらちら視線を寄越しているが。
味付けはかなりスパイシーで、リーフなどはひぃひぃ言いながらつまんでいる。いま口に運んだのは真っ赤な茸の炒め物。匂いが目に染み、舌が痛くなるほど辛い。なのに、キンキンに冷えた強炭酸の酒でそれを押し流すと、次のひと口が欲しくなってしまう。
「ふっ、永久機関が完成してしまったな」
「何言ってるかわかんないけど、なんか言いたいことはわかる……!」
キッポンのつぶやきに、珍しくリーフが同意する。
「はっはっは、エルフのくせにこの味がわかるとはなかなかやるじゃねえか。あいつらの食いもんは素っ気なくてつまんねえんだよな」
「あー、それはたぶんホンカクエルフじゃないかな。あいつらって野菜しか食わないんだよね。一度うちの村に来たことがあるんだけどさ。エルフ族としての伝統がーとか、本当のエルフはーとかうるさいばっかりで、ぜんぜん使えないの。あたしも苦手なんだよねー」
リーフは赤くなった舌をべえっと出して、それから肉の揚げ物に手を伸ばす。こちらも辛いが、じわっと滲み出る脂が甘く、いつまでも噛んでいたくなってしまう。
「ところでさ、あたしたちって一体何を疑われてたの?」
「あー、その話か。面白え話じゃねえからメシでも奢ってごまかしちまおうと思ってたんだが。ま、黙ってても街にいたらすぐに耳に入るか」
ボリングは薄焼きのパンに真っ赤な豆の煮込みをたっぷりのせてガブリとかじり、ジョッキの酒で胃に流し込んだ。
「坑道に害虫が出てなあ。よりによって、稼ぎ頭の魔石鉱床にだ。おかげさまで我らが工匠国は現在開店休業中。商売敵の嫌がらせなんじゃないかってもっぱら噂になっててな。で、その害虫ってのが――」
脂やソースで汚れた指をしゃぶり、それから人差し指で一点をさす。
「――それだったんだよ」
「えっ、俺?」
いきなり指をさされ、キッポンは素っ頓狂に聞き返した。




