第59話 スライム、ドワーフの国で捕まる
ドヴェルグ工匠国の領土は広大な坑道そのものである。
天を突くような巨大な岩山には、やはり巨大なドワーフ男の半身像が彫り込まれている。複雑に編み込まれた髭。丸く取っ掛かりのないヘルメット。逞しい両腕が握るのは槌とノミ。戦場では斧槍を振るう勇猛な戦士として名高い彼らだが、その本質が鉱夫にして工人であることを端的に象徴していた。
その彫像に守られるように、ドヴェルグ工匠国への入口がある。
大型馬車が四台は余裕をもってすれ違えるそこは、普段であれば旅人や商人で混み合っている。しかし、今はなぜか人々の往来はまばらで、わびしい様相を見せていた。
「ダメダメ。君らは通せないよ」
そこを通ろうとしたキッポン一行の馬車を、門番のドワーフが押しとどめる。上背こそ只人の胸ほどまでしかない彼らだが、横幅は広く筋肉を詰めた酒樽のような体つき。その手に握る斧槍は、その気になれば人体など容易に両断せしめるだろう。
「ええー、なんでよ。あたしがエルフだから?」
御者を務めるリーフが唇を尖らせが、門番は「そうじゃない。今どきエルフ差別とか流行んねーよ」と首を横に振る。
「色々あってな。特別な許可のある者しか通せないんだ」
「特別な許可とは何でしょう? こちらでは不足しますか?」
同じく御者台に腰掛けていたキュティが、懐から紋章をふたつ取り出す。
「ほう、コロッセの男爵勲章と、叡智の塔の導師号証明か。大したご身分なのはわかったが、このドヴェルグ工匠国にその手の権威は通じねえよ」
コロッセ王国の宮廷魔術師であるキュティは、世間的にはかなり偉い人である。大抵の無理はこれで通せるくらいの権威があるのだが、虚名を嫌い実を重んじるドワーフには逆効果だったようだ。
「ねえねえ、何がダメなの? 通してもらうためにはどうしたらいい?」
「あっ、キッポン! 顔を出さないでって!」
馬車の幌からにゅるりとキッポンが顔――正確には人面を模した触手を伸ばす。傍目には半透明のろくろ首で、リーフは慌てて押し留めようとする。
「ひっ、ひぃっ!? ば、化け物だ! であえっ、であえーっ!!」
「あーあ……」
「いやはや、またですか……」
リーフが顔をしかめ、キュティが頭を抱える。
端から見て、キッポンはスライムだか何だかわからない謎の怪物である。道中でも行き違った旅人に腰を抜かされたり、兵士に追われかけたり、冒険者ギルドに討伐依頼がされてたり、宿屋に宿泊拒否されたりと色々大変だったのだ。
それを反省して幌馬車を買い、人目のある場所ではワゴンに隠すようにしたのだが――素直に言うことを聞くキッポンではない。好奇心が抑えられなくなると、こうやってちょろちょろ顔を出すので、相変わらずトラブル続きの道中だった。
とはいえ、この世界には魔物使いという存在がいる。
リーフが使役しているエルフ秘伝の魔物……ということにして説明をすれば、場を収めることができた。説明は面倒だが。
今回も同じ手口で乗り切ろう。リーフはため息をつき、口を開く。
「ええっと、このスライムはうちの実家の秘伝の魔物でして、あたしが使役をしているので危険なことは何も――」
「何ィ!? スライムを使役しているだと!! みんなっ、こいつらが犯人だ! 絶対に逃すんじゃねえぞ!」
「へっ?」
ぞろぞろと現れたドワーフたちの斧槍に、一行の馬車は完全に取り囲まれてしまった。




