第58話 スライム、魔術修行の旅に出る
「というわけで、旅の道連れはリーフとキュティになりました」
「なんであたしが……」
「はあ、読書だけして暮らしていたいです……」
旅の一行はキッポン、リーフ、キュティの三名。
ネイディも着いてきたがったのだが、彼女は王族にしてフォレストサイドの太守だ。復興もあるし、ほいほい旅に出るわけにはいかない。
リーフに関しては、キッポンの世話役だからである。
なんやかんや一段落した感じだし、そろそろ村に帰っていいかと手紙を送ったのだが、長老からの返事は「キッポン様から目を離すな」とのこと。だいぶ警戒心は薄まったとはいえ、エルフ村にとってキッポンはいまだ未知数の存在で、目を離すわけにはいかない。
それに「せっかくだから外の世界を見聞させよう。そのついでに男でも引っ掛けてきてくれてもいい」という親心と打算の入り混じった思惑もあった。小さなエルフ村のこと、外からの血は基本的に歓迎なのである。
キュティだが、こちらはキッポンに魔術を教える約束をしてしまったせいだ。
フォレストサイドの滞在中にあれこれ教えようとはしたのだが、ひとつも身になっていない。ある日の授業の様子を再現すると、
「魔術の基本は体内の魔素操作です。魔素は血に混じって全身を巡っています。まずは血流を意識して……」
「血、ないけど」
「で、では、おへその下に意識を集中して……」
「おへそ、ないけど」
「指先が熱くなっていくような感覚を……」
「触手でいいかなあ。あっ、ドリルになっちゃった。一番使ってるからかなあ」
「…………」
という具合である。
そもそも、人間がスライムに魔術を教えるなど前代未聞。
教え方などわかるはずもなかった。
まあ、仮に教え方がわかったところで、キッポンが魔術を使える可能性は絶無なのだが。
この世界において、魔術とは先天的な才能がなければ使えないものなのだが、スライムには種族的にその才能が存在しない。進化やレベルアップの可能性がないのと同じく、キッポンがある日突然魔術の才能に目覚めるなどという都合のよいことは起きないのだ。
しかし、キッポンはそんなことを知らない。
(魔法を覚えたら、それがフラグになって進化とかレベルアップとかしちゃうんだろうな。うふふ、マジックユーザー系の進化だったとは盲点だったなあ。ずっと物理でゴリ押しだったからな。ふはははあ、物理職なんてもう古い。これからは魔法の時代ですよ、キミィ)
なんてことを呑気に考えている。
なお、宮廷魔導師たる彼女が国を放っていいのかと言うと、もちろんそんなことはないのだが、キッポンの旅への同行は国としても渡りに船だった。
何しろ伝説の聖剣なしには倒せないとされていた邪神王を実質単騎で討ち取った怪物だ。売れる恩があるのなら宮廷魔術師の一人や二人安いもの。喜んで差し出そうという構えである。
ネイディは「約束は約束ッ! 果たさねばならんなッ!」とあまり難しいことは考えていない感じだったが。
「で、なんで目的地がドワーフの国なのよ?」
「ああ、それはですね――」
リーフの疑問に、キュティが代わって答える。
「ドヴェルグ工匠国には大規模な魔石鉱山があります。魔素が豊富な土地での修業も基本ですので……」
キッポン殿に効果があるかはわかりませんが、という言葉を、キュティは喉元で飲み込んでいた。




