第56話 スライム、復興支援をする
青空にトンテンカンと槌の音が響いている。
行き交う人々の喧騒は、ほんの数ヶ月ばかり前に襲った悲劇など忘れ去ったかのようだ。
「おーい、キッポン、こっちを手伝ってくれー」
「キッポン、こっちを頼むよ」
「キッポン、こいつを味見してくれないか?」
「「「あいよー」」」
そんな人々の間で駆けずり回る緑色の半透明――無数のキッポンが、かつてバッファロータウロスに蹂躙された都市フォレストサイドの復興作業を手伝っていた。
「キッポン、改めて礼を言うぞッ! お主のおかげで目覚ましい勢いで復興が進んでおる」
「いやいや、気にしなくていいよ。ちゃんと報酬はもらってるしさ」
復興を視察するネイディの傍らで、キッポンはモコモコラムの腸詰めのサンドイッチをさくぱりと食べながら、にこやかに返す。
「それに、こういうイベントがフラグかもしれないしね」
「フラグ?」
「あ、いや、こっちの話」
ゲーム脳だと馬鹿にされたらかなわない。
キッポンは慌てて口をつぐんだ。
キッポンがフォレストサイドの復興作業を手伝っているのは、それが進化やレベルアップのフラグになることを期待してのことだった。普通ならラスボス級であろう魔神王なる大物を倒したのに、未だに【天の声】が聞こえてくる兆しがない。これはひょっとしたらRPGではなく、何か他のゲームをモデルにした世界――例えばシム〇〇系の街づくりシミュレーション――なのではないかと思ったのである。
(なんとかシミュレーションはやたら数があるから、色々試してみないとね。自動車修理とか、掃除シミュレーションみたいな変わり種まであるからなあ)
仮にその手の生活シミュレーションだったとして、復興作業であればかなりの範囲をカバーできる。そこでキッポンは魔神王を喰らって約600トンになった身体を1トンずつに分割し、街の復興を手伝ったのだ。なお、半数はスモスモ族の支援のために偽陽界に派遣している。
最初はしゃべる巨大スライムに恐怖した住人から攻撃されることもあったが、いまでは街の風景にすっかり溶け込み、「エサをやれば手伝ってくれる友好的謎モンスター」として認知されていた。
「本当は、魔神王を倒した英雄として称えたかったのだがな」
「いやー、そういうのはガラじゃないから」
魔神王の討伐を果たしたのはネイディということになっている。
理由はふたつ。
ひとつはコロッセ王家の権威のため。フォレストサイドの壊滅や王城への襲撃で王国の情勢は不安定だ。そこに魔神王討伐という大功を遂げた英雄が現れたらどうなるか。彼を担いだ勢力が国を割る恐れがある。まあ、スライムを旗印にする勢力があるのかは疑問だが。
もうひとつは絵面が酷すぎたため。キッポンが魔神王を倒した手段は、体内に侵入して脳みそをめちゃくちゃに食い破るという、映画にすればX指定間違いなしのスプラッタだった。そんな英雄譚が流布しては、別の意味で王国民の不安が増大してしまう。
そして、キッポンが手柄を譲ることを飲んだ理由だが――
(うへへ、知る人ぞ知る隠れた英雄っていうのもカッコイイよねえ)
というものであった。
相変わらず難しいことは考えていない。
「それでキッポンよ。復興の目処はあらかた着いてきたが、お主は今後どうするのだ?」
「うーん、そうだねえ……」
キッポンは少しだけ言葉をためて、
「旅に出るよ。みんなの夢を託されちゃったからさ」
「みんな……か」
短いが、激しい戦いだった。
この戦いで散った者たちのことを言っているのだろうか、ネイディは思う。
しかし、キッポンの口からは放たれたのは意外な言葉だった。
「ああ、キッポンズのね!」
「キッポンズ???」
ネイディは、露骨に怪訝な表情を浮かべた。




