第53話 進撃のスライム軍
ゲートをくぐり抜け、陽界に戻ったキッポン一行は快進撃を続けた。
帰還した場所はバッファロータウロスの本来の生息地である南部平原。コロッセレギアに向けて全軍で北進していた魔神軍は、背後からの奇襲に完全に不意を打たれ、次々と壊滅していった。
ネイディの灼熱剣プロミネンスが放つ業火と、キュティの雷魔法が敵陣を縦横無尽に焼き尽くす。さらにリーフの弓とスモスモ族の吹き矢による正確無比の狙撃が部隊長クラスを襲う。いずれにも戦争用の猛毒が塗られており、かすり傷でも与えれば即死するという凶悪仕様である。総勢百人にも満たない小勢であったが、魔神軍からすればシモ・ヘイヘ(※)の群れが戦車に乗って突っ込んでくるような悪夢である。
※ソ連軍相手に無双した実在のスナイパー。フィンランド軍人。異名は『白い死神』
そして何より――
「オレっちは魔神軍第六将、疾風のケンタウリオン! オレっちの軍団にスピード勝負を仕掛けようとはいい度胸だっ! 気に入ったぜ! ぬおっ、足に粘液が……!? ぐあああああああっ!!」
「我が名は魔神軍第五将、群体のレギオン。我々は大勢であるが故に……こらっ、やめろっ! 端から喰うんじゃない!? ぬわあああああああああ!!」
「己は魔神軍第三将、獣王エンペラーベヒンモス。己が育て上げた超獣軍団の圧倒的破壊力。その身で味わうがいい……って、でかっ!? ごぼっ、ごがごぼぼぼぼぼ……」
キッポンである。
キッポンによって、魔神軍各部隊の中核にして最強戦力である魔神将を次々と撃破されてしまったのだ。
これは言っても詮無きことだが、魔神軍は並びが悪かった。
まず最後尾の疾風のケンタウリオン。これは機動力を重視し、状況に応じて先陣のフォローをする部隊であったが、これが決定的にキッポンと相性が悪かった。大地に張り巡らされた粘糸によって機動力を封じられ、一方的に喰い尽くされた。
※キッポン体重:1トン→11トン
次に群体のレギオン。これは小型の魔蠱の大群であったが、ハエ取り紙&ゴ◯ブリホイホイよろしく特大の粘着シート化したキッポンの前では餌食でしかなかった。
※キッポン体重:11トン→31トン
そして魔神軍第三将、獣王エンペラーベヒンモス。少数ながら超重量級の獣型モンスターを揃え、魔神軍の切り込み役を担う精鋭部隊であったが、いかんせん体重差がありすぎた。地球最大の生物シロナガスクジラの倍以上の巨体となったキッポンの前には、ライオンに挑む子猫の群れも同然であった。
※キッポン体重:31トン→50トン超
こうして破竹の勢いで進んだキッポン軍団の前に待ち構えていたのは――
「あっしは魔神軍第一将、ザトーイチ。拙い技で恐縮でござんすが、お目汚しさせていただきやしょう」
ボロボロの着流しに一本の杖を携えた、初老の男だった。
その双眸は白濁し、光を映していない。
他に部下の姿はなく、草原に唯一人。
杖を突きながらうっそりと歩き。
鞘走り。
銀光一閃。
ただそれだけで、大地が地平線まで真っ二つに両断される。
50トンの小山の如き巨体となったキッポンもまた例外ではない。
「「でも、斬撃無効なんだよなあ」」
「いやな渡世だなァ……」
盲目の剣豪は、キッポンの体重をわずかばかり増やして散った。




