第52話 スライムの辞書に反省の二文字はない
「ど、どうなっとるんじゃこれは……」
キッポンの勝利の雄叫びを聞きつけたスモスモ族が、荒れ果てた森の様子に声を震わせる。
「ごめん、予想以上に手強いやつでさ。森を守りながら戦うのは無理だったよ」
「我らの森をこんなにも傷つけるとは……。魔神王、やはり許せん!」
キッポンの言葉に、スモスモ族たちが怒りの声を上げる。
決して嘘は言っていない。森がめちゃくちゃになったのはセンベイヤーが強敵だったせいだし、この惨状の犯人をセンベイヤーだと思い込んだのはスモスモ族の勝手である。よって、俺は悪くない。本気でこう思うあたり、そこそこサイコパスが入っているキッポンであった。
「落ち着いたら復興を手伝うからさ。俺、こう見えて土木工事とか得意なんだよね」
「うう……キッポン殿、かたじけない……」
「気にしないでよ。困ったときはお互い様ってね。俺たちは打倒魔神王の仲間なんだからさ」
「我らスモスモ族、この御恩は一生忘れませんぞ……!」
「いやだなあ、水臭いこと言うなって」
あまつさえ、この調子である。
キッポンの辞書に反省の二文字は存在しないのだ。
「警戒網を壊したのはいいんだけどさ、これじゃ奇襲作戦も成り立たなくない?」
「あっ」
リーフに突っ込まれ、キッポンは「しまった」と舌を出す。舌はないが。
もともとの作戦ではセンベイヤーを隠密に排除し、無効化した警戒網から侵入したスモスモ族が魔神軍に奇襲を加える手筈だったのだ。
「なあにッ! 奇襲など所詮は開戦の狼煙に過ぎんッ! 堂々と宣戦布告の号砲を撃ち込んでやったと思えばよいのだッ! そして見よッ! ずいぶん派手にぶちかましてやったではないかッ! 今頃、賊軍どもは大混乱に陥っているだろうッ!!」
動揺が拡がる前に、ネイディが剣を抜いて高らかに叫ぶ。
失敗は兵の士気を鈍らせる。そして戦場では予測不能の事態などいくらでも起こる。いかなる状況であろうとも前向きに捉え、士気高揚に活かすのが将の器であり、ネイディは生まれながらにその能力に秀でていた。
「しかし、この状況で敵の動きがまったく見えないのはなぜでしょうか。キッポン殿、周辺の状況はどうなっていますか?」
キュティに問われ、キッポンはレーダーモードを展開する。
周りは味方が守ってくれているので探知に全振りだ。
「うーん、おかしいな。敵がいる様子がまるでない。スモスモ族みたいにステルスされてるのかもしれないけど」
「その可能性は低いでしょうな。隠形において、我らスモスモ族はこの世界でも一頭地を抜いております。キッポン殿の目を欺ける個はおりましょうが、軍単位で隠れられる種族はいないと請け合いましょう」
「そっかあ。……あっ、でもなんか変な感じがする場所があるな」
キッポンは、その方向に意識を集中する。
なんと表現するべきか、空間に突然ぽっかり穴が空いているような感覚だ。
円状で、大きさは直径100メートルくらいある。
「それは、もしや巨大なゲートを開いたのやもしれませぬ! そこから全軍で陽界に攻め込んだのではありませぬか!?」
「何だとッ!? だがッ、それならばこの森の守りがたった一人だったことにも納得がいくッ! 急ぐぞ、皆の者ッ! これは好機であるッ! 魔王軍の後背を突き、総崩れにしてやるのだッ!」
「おおーーーーっ!!」
こうして一行は、意気も軒昂にキッポンが探知したゲートへと雪崩込んだ。




