第49話 スライム、潜入する
狂界の森――そこはスモスモ族の故郷である。
捻じくれた木々が密接に生い茂り、森の中には灰色の太陽の光も届かない。そのため下草はまばらで、大型のシダ植物や、キノコ類などが生えている。
「とりあえず単独潜入案になっちゃったなあ」
と、ぼやきながら進むのはキッポンである。
蛇のごとく長く伸ばした身体はぬるぬるの粘液にまみれており、通り過ぎた後にはべっちゃりと跡がついていた。仲間たちは森の外で待機をしており、キッポンの合図で動く手筈となっている。
「殺虫剤の大量散布もダメ、掘り返して沼地にするのもダメ、もちろん火攻めもダメとなるとこうするしかないよね」
キッポンが示した複数の案とは、そのほとんどが森ごと壊滅させるアイデアだった。まず相手は「糸繰」なのだから昆虫系のモンスターだろうと想定して殺虫剤の大量散布を提案したのだが――
「そ、そんなことをされたら虫が全滅して森ごと滅びてしまいますぞ……」
「じゃあ森ごと掘り返して、水を流し込んで沼地に変えちゃうのは?」
「森を取り戻すための戦いなのですが……」
「じゃあ、火攻めもダメかあ」
「当然ですぞ!」
――というわけで、もっとも地味な単独での潜入行となった次第である。
「しかし、本当に糸だらけだなあ。こりゃふさふさのスモスモ族とはどう考えても相性悪いね」
粘液に触れた糸を感知し、キッポンはにゅるりと身を捩ってかわす。
張り巡らされている糸はナノ単位の太さで、キッポンレーダーをもってしても察知は難しい。推測だが強度も相当なものだろう。これに触れずに侵入するのは、スモスモ族でなくともほとんど不可能だ。
そこでキッポンは、「糸を完全に避ける」という選択肢を捨てた。そして「触れても問題ない状態にする」ことを選んだのである。
「クモなんかも巣に雨粒がかかっても反応しないって言うからね。液体が触れても大丈夫だろうと踏んだけど、予想通りでよかった」
キッポンが森への潜入に成功しているのは、まさにこの読みが的中したからだった。糸に触れる液体にまで反応してしまっていては、雨だけでなく朝露や、木から滴る雫にまで反応してしまってキリがない。現代日本でも各種センサーが発達しているが、なんでもかんでも反応しないよう感度が調整されている。それと同じで、反応が無差別ではないのは必然だったのである。
「それじゃ、糸繰さんとやらを探しますかね」
糸の配置を観察し、それが集まる場所を辿っていき、やがて辿り着いた先にそれはいた。
「やだ……イケメン……」
そこにいたのは、大木の枝に腰を掛けて糸を繰る、黒尽くめの服をまとった美青年だった。




