第44話 リーフ、豹変す
「わあああっ、なっ、何っ!?」
「また魔神軍の奇襲ですか!?」
「落ち着けッ! 慌てるでないッ!」
ぐにゃりと足元が歪むような感覚。
直後、周囲の景色がぱっと明るくなった。
広がっていたのは灰色の光景。祠は姿を消し、石と砂の荒涼とした平原は、霊峰レギナとは似ても似つかない。
「ここ……どこ?」
「た、太陽が灰色ですよ……?」
「油断するなッ! 武器を構えろッ!」
慌てる面々を尻目にキッポンは、
(おお! 突発イベントだ! 資格のない者が聖剣に触れたからとか、たぶんそんな理由だな!)
と呑気なことを考えつつも、レーダーモードで周辺を索敵する。
「周辺1キロに敵っぽい反応はないよ。とりあえず危険はなさそう」
「そうかッ! 承知したッ!」
ネイディが剣を納め、リーフとキュティも得物を下ろす。
「一体何が起きたんだろ……。ここ、あの山じゃないよね?」
「はい、祠で聞こえたあのメッセージからも、魔法の罠でどこかに強制転移されたのかと。場所はわかりませんが……」
「ふうむ、キッポンが聖剣に触れたことが罠のトリガーになったということか?」
三人の視線を感じ、キッポンがぷるんと震える。
「たぶんそう! ごめんなさい!」
こういうときは意外に素直に謝れるのである。
「いや、責めているわけではない。妾もこんな事態は想像もしていなかったからな。聖剣は王家にとっても謎の多い存在だったのだ。謝るのならば、妾の方であろう。皆、すまんッ!」
「いやいや、俺の方こそ……」
「いいや、妾が悪いッ!」
「でも俺のせいで……」
「王族たる者、判断のひとつひとつに責任が――」
「もう、いい加減にしてっ!」
リーフが足元をダンッと踏んだ。
「今は遭難してるんだから。そんな言い争いをしてたらみんな死んじゃうわよ。犯人探しなんかどうでもいいから、今は帰る方法を考えないと」
「「は、はい……」」
豹変したリーフに、キッポンとネイディは思わず姿勢を正してしまう。
リーフは生粋の狩人であり、長命種なのだ。長年の経験の中には、遭難への対応も含まれている。
「まずはキッポン。遠くを見て何かないか探してみて。人里があれば一番だけど、なければ水源。なければ森や植物が生えているところ。何もなかったら少しでも高い場所を探して」
「了解しましたっ!」
キッポンがにゅるんと縦に伸び、望遠モードで偵察を開始する。
「次、ネイディとキュティは周辺の警戒をよろしく。キッポンの死角から不意打ちがあるかもしれない。あたしは人や獣が行き来した痕跡がないか調べてみる」
「承知したッ!」
「りょ、了解です」
リーフはかがみ込んで地面をじっくり観察する。
土塊を拾い、指先で崩してみる。
「ほとんど乾いてるけど、ほんの少し湿気がある。ってことは雨が降らない土地じゃなさそうね」
そして、地表の色が少し違う場所に気がついた。
そちらに行って確認すると、土がわずかに踏み固められていて、幅数メートルの帯状に続いている。
「うーん、何も見当たらないや。そっちは何か見つかった?」
偵察を終えたキッポンがしゅるしゅると縮みながら聞いた。
「ここを何かが行き来してた跡がある。頻繁じゃないし、何が通ったのかもわからないけど。ま、他に手がかりもないし、ここを辿ってみよっか」
「すげー! さすがは狩人だなあ」
というわけで、一行はリーフが見つけた道らしきものを辿ることになった。




