第42話 とある科学の転生スライム
上空。
天雲のフェザーホークは悠々と羽ばたきながら、下界のターゲットを観察していた。フェザーホークは巨大な猛禽の姿をしており、その視力も猛禽なみだ。1キロ下のネズミの尻尾の動きさえ手に取るように見ることができる。
そのフェザーホークの目に、奇妙なものが映っていた。
あの正体不明のスライムもどきが、ドライヴァルの鱗で二叉の槍のようなものを作り、こちらに向けているのだ。
「遠撃の、きゃつらが何やら妙なことをしているぞ」
「天雲の、話しかけるな。集中しておる」
遠撃のスナイプフロスクの姿はカエルに似ている。
生得的に優れた肺活量を風魔法でさらに強化し、土魔法で作成した専用の弾丸を放つ。長い舌が砲身の役割を果たし、音を易々と置き去りにする圧倒的弾速と、1キロ先の羽虫を撃ち抜く精密性を有する。もっとも、視力はそこまで高くないため、着弾観測のためにフェザーホークの協力が不可欠だが。
そのスナイプフロスクにしたところで、魔神軍第二将ドライヴァルの鱗はそう簡単に抜けるものではない。胸いっぱいに空気を吸い込み、膨らませた肺の中で風魔法を練る。口中で土魔法を編み、重金属製の弾丸を精製。細長いどんぐり型のその表面は滑らかではなく、ナノレベルの微細な凹凸により空気抵抗を限りなくゼロに近づけていた。
「天雲の、反動が大きいぞ。備えよ」
「遠撃の、承知した。いつでも撃てい」
スナイプフロスクの口がすぼみ、3メートル超の舌が伸びる。
筒状に丸められたその内側を、膨大な空圧を受けた弾丸が疾走。鋼鉄製の城門さえ薄紙の如く貫く一撃が放たれた。
その瞬間、眼下の敵がきらりと輝いた。
ぼしゅっ
何かが通り過ぎていった。
風が下から吹いてくる。
地面の景色がゆるゆると拡大していく。
「あ、天雲の……おぬし、腹から下が無くなっておる……ぞ……」
「え、遠撃の……おぬしこそ……左半身が……無い……」
「「無念……」」
わずかののち。
二体の魔神将は、その身体を大地の染みに変えた。
* * *
「いやー、いけるもんだね。レールガン作戦!」
「うわー、あんなおっきな鳥が半分吹っ飛んじゃったじゃん」
「キッポン、よくやったッ! キュティもさすがは我が魔術の師よッ!」
意気揚々とぷるぷるするキッポンの傍らで、リーフとネイディが感嘆の声を上げる。
「まさか、雷魔法にこんな使い方があったとは……」
一方、キュティは蒼白な顔で先ほどの一撃を放った物体を見上げていた。
表面が溶解し、ぷすぷすと白煙を上げているそれは、ドライヴァルの鱗を二列に並べたもので、キュティはその根本に全力の雷魔法を放っただけだ。間にはやはりドライヴァルの鱗から作った弾丸がセットされており、魔法を発動した瞬間、爆音と閃光を伴って発射。上空の魔神将二体をまとめて吹き飛ばしたのである。キュティは知らないが、要するにローレンツ力を利用したレールガンと同じ原理だ。
「ねえねえ、俺にも魔法って使えるかな? 教えてもらってもいい?」
「はっ、はいっ!」
キュティは反射的に頷いたが、直後、この亜神に魔術を教えてよいものなのか悩む。魔術とは神々が持つ力を、神ならぬ者が使えるよう築かれた技術だ。キッポンに魔法を教えるのは、ただでさえ強力なこの存在に、他の神々の力まで使えるようにすることと同義なのではないか――
「キュティの魔術講座は長いから後だッ! 後詰めがあるかもしれん。先を急ぐぞ」
「ちぇっ。はーい」
「こらッ! 舌打ちが聞こえておるぞ!」
「さーせんしたー」
ネイディに促され、キッポンがしぶしぶ移動を再開する。
キュティはほっと胸をなでおろしたが、いつかはこの問題を直視しなければならないのかと思うと、きゅっと胃が縮まるような気分になった。




