第39話 スライム、山を登る
聖剣メガロマキナ。
その封印の地は王都が背負う霊峰レギアにある。
ちなみに、王都のコロッセレギアという名はこの山にちなんでいた。
「山登りかあ。これもひさしぶりだなあ。空気が美味しいや」
「うむッ! 吹き下りる風が涼しくて気持ちいいなッ!」
「森や平原とはまた別の鳥がいるね。美味しいのかな?」
木々を縫う急峻な山道を、キッポン、ネイディ、リーフの三人が雑談混じりに歩く中、ひとり遅れているものがいる。
「はあ……はあ……す、すみません。ちょっと待ってください……」
キュティである。
優れた魔導師である彼女だが、魔法使いのご多分に漏れず肉体的には貧弱だった。キッポンから目を離すわけにはいかないと同行を申し出たが、体力の方が追いついていなかった。
「いかんな、キュティ。書斎にこもって本ばかり読んでいるからだぞ。少しは鍛えなければ身体が弱ると言ったではないか」
「はあ……はあ……。反省してます……」
ネイディに呆れられ、キュティが肩を落とす。
キュティはネイディの学問の師であるが、肉体面では立場が逆転するのだ。
「しんどかったら乗せていこうか?」
「へっ?」
キッポンの申し出に、キュティの眼鏡がずり落ちそうになる。
「そ、そんな。キッポン殿に乗るなんてそんな無礼な……」
「いいっていいって。俺は気にしないし」
「ひええっ!?」
触手に絡め取られ、キュティがキッポンの背に乗せられた。
外騎士爵に無礼はできないという建前ではあったが、本心は怖かっただけだ。あのドライヴァルなる魔人を丸呑みにする姿を目撃していたのだから仕方がない話である。
しかし、
「乗り心地どう?」
「は、はい。大丈夫です……」
大丈夫というか、すごく具合がよい。
最初はびくびくしていたが、まず柔らかくてほとんど揺れない。
キュティは王家の馬車にも同乗したことがあり、それの乗り心地も素晴らしいものだったが、キッポンと比べたら天と地だ。読者にもわかりやすいよう例えるならば、在来線と新幹線くらいの差がある。さながら移動する人をダメにするクッション。
そして、肌触り。
ほどよくひんやりして、山歩きで火照った肌に心地よい。
表面はすべすべで、絹よりも滑らかな肌触りだ。
まるで穏やかな湖面に浮かべた高級ソファに寝そべっているような――
「zzZ……zzZ……ハッ!? い、いけない。ついうとうと……zzZ……zzZ……」
重大な使命を担った旅路であるにもかかわらず、つい居眠りしてしまうほどだ。
(ふふふ、エルフ村から王都までの道中じゃ、上手く人が乗せられなかったからなあ。粘液オフ、制震機能を強化して、超一流の乗り心地を実現したぜっ! さすがに高速移動は無理だけど)
これならリーフやネイディも乗せられるかな、とちらりと見ると、
「あっ、あたしは山歩きも慣れてるから!」
「これも鍛錬のうちよッ! 気遣いはありがたく思うぞッ!」
リーフはやけに慌てて、ネイディには力強く断られ、ちょっぴり切ない気分になるキッポンなのであった。




