第38話 スライム、買収される
(ゲームの強敵ってさ、なんで仲間にすると弱くなるんだろうね。理不尽だよねえ)
戦慄するキュティを尻目に、キッポンが思い出していたのは前世で遊んだゲームである。
魔神というと弱くとも中ボスクラスで、敵として戦うと厄介なのに、仲間にするといまいち使えなかったりする。ゲームバランス的な都合なのだが、理不尽だなあと思う。
ともあれ、いまは前世のゲームの話なんかよりもだ。
「それで、この国の魔神伝説ってどんななの?」
「え、ええ。ではかいつまんでお話をさせていただくと――」
キュティが小さく咳払いし、眼鏡をくいと直す。
――魔神、それは神話の時代の終わりに現れた。光と神々と闇の神々が争い、地上を去った後に、魔界と称する異世界からやってきたのだ。一説によると、旧き神々がこの世界を守るために張っていた結界が弱まったためだという。
魔神はこの世界を蹂躙し、人類は滅亡寸前まで追い込まれた。
そこで立ち上がったのがコロッセ王家の建国王である。彼女は太陽神の遺産とも云われる聖剣を携え、魔神を束ねる王――魔神王を討ち、これを退けたのだ。魔神王を討伐した聖剣は、王家の秘所に隠されていると云う。
「――と、このように伝わっていますが、魔神王の最期についてははっきりしないところがあります。トドメを刺したとも、封印したとも、魔界に追い返したのだとも……」
「なるほどー。復活だか、封印が解けたんだか、魔界からリベンジに来たのかどれかってわけね。よくあるパターンだねえ」
キッポンはまたしても前世の知識に当てはめる。
もちろん、ラノベやマンガの話である。
(魔神との戦いすらもありふれたことのように……。キッポン=ディン、魔神王との戦いに必ず欲しい存在です)
しかし、キュティはいよいよキッポンへの畏敬を深めている。
魔神王の戦力は未だ全容が掴めない。わかっているだけでもフォレストサイドの壊滅、王城への急襲と、その脅威は明らかだ。不意を打たれなければここまでいいようにはやられなかったとは思うが、万全で迎え討ったとしてもはたしてどれだけの被害があったか。
(なんとか味方に引き込みたいものですが、万が一にも機嫌を損ねて敵に回せば王国はおしまいです。慎重に策を練らないと……)
キッポンがコロッセ王国に味方する義理など何もないのだ。
王城の危機を救ってくれたのも、どうやらネイディとの個人的友誼によるものらしい。そんな曖昧なものに頼ってはいられない。なんとかキッポンの関心を引ける交渉材料を見つけなければ……。
そう、キュティが悩んでいると、
「おーい、キッポン! ここにおったかッ! ようやく無駄に長い会議から解放されたぞッ!」
大きく手を振りながら、ネイディがやってきた。
突然のVIPに街の人々がざわついているが、ネイディはそれに構わず大股でずかずかと歩いてくる。
そして行きがけに屋台の串焼きをごっそり買ってきて、
「キッポン! 聖剣を取りに行くことになった! 付き合ってくれんか! これは報酬の前金だッ!」
キッポンにぐぬりと突っ込んだ。
「もぐもぐもぐもぐ……お、塩もタレも美味しいなあ。いいよ、いつ行くの?」
「今からだッ!」
「りょーかい。リーフもいいよね?」
「ええー……。でもあたしだけ断るわけいかないじゃん……」
ということになった。
「ま、待ってください。小生も同行します!」
キュティは「そんな乱暴な真似をして大丈夫なのか……」と内心で慄きつつ、足早に進むネイディの背中を追いかけた。




