第37話 キッポン、食べ歩きを満喫する
宴会の翌日。
キッポンとリーフは城下町を散策していた。
ネイディは大事な会議があるとかで欠席で、「すまんッ! 街を案内する約束が守れなかったッ! だが、代わりに人をつけるぞッ!」と寄越したのが紫のローブをまとい、眼鏡をかけた若い女――宮廷魔導師のキューティリオンである。
「宮廷魔導師なんて偉い人が観光案内なんてしてていいの?」と疑問だったが、「我が国の恩人の接待です。小生でも役者不足ですよ。それから、どうぞ小生のことはキュティとお呼びください」とのことだった。
「小生はネイディ様の家庭教師もしていましてね。街歩きにもよく同行していたのですよ。だから、街の様子にも明るいのです。ほら、あちらの屋台もおすすめですよ」
「おお、異世界『ホットドッグ』!」
「……? 王都では犬食は一般的ではありません。モコモコラムの腸詰めですね」
屋台の並ぶ広場。
そのうちの一店舗に立ち寄り、細長いパンに挟んだ腸詰めを買う。
大口を開けたリーフが、それにがぶりとかぶりつく。
さくさくのパン、パリッとした腸詰め、溢れる肉汁。
「んふ~、おいしい! えへへ、只人の街でこんなに買い食いするのは初めてだなあ。うちの村じゃ、コインなんて貴重だったから、キュティさんのおごりで助かっちゃうな」
「持つべきものは金持ちの友ってやつだねえ」
キッポンも、わざわざカルシウムで作った歯で異世界ホットドッグの食感を楽しんでいる。前世でもウインナーはパリパリ派で、包丁で切れ目を入れるなど邪道だと考えるタイプだった。
そんな一行を、街の人々が物珍しげに眺めている。
馬鹿でかいスライムが珍しいのだ。
誰もいないところで突然出会ったら絶叫確定の化け物なのだが、人通りの多い町中で、飼い主らしき人間もそばについているとなれば、ちょっと変わったペットくらいの印象になる。
「わ、あの果物見たことない。皮ごと食べるのかな?」
「いえ、ジュースにするんです。目の前で絞ってくれるんですよ」
キュティが金を出し、木製のカップに入ったジュースを買う。
「カップは返さないといけないので、このあたりで飲みましょう」
と、噴水の縁石に腰を掛けた。
リーフも横に座り、キッポンは通行人の邪魔にならないよう縦長になった。
「そういえばさ、魔神だとか魔神軍だとか、結局なんだったの?」
リーフが雑談のつもりで何の気なしに言う。
彼女的にはネイディを王都に送り届けた時点で仕事は済んでおり、もはや他人事なのだ。
「エルフには伝わっていないのですか?」
「どうだろ? あたし、昔話とか興味ないし。鳥とか猪とか追っかけてる方が性に合ってるんだよね」
と、弓を引く仕草をする。
「あ、俺は興味あるよ! 魔神とかさ、やっぱ定番じゃん!」
「定番……?」
キュティの眼鏡がきらりと光る。
伝説の魔神を「定番」などとは、いよいよもって底が知れない。キッポンに外騎士爵を与え、友好関係を結ぼうと献策したのはキュティであったが、それは正解だったと改めて思う。
「失礼ですが、キッポン殿は我が国に伝わる魔神をご存知で?」
「ううん、この国のは知らないよ。でも、ゲームとかでよく。たまに味方にできるけど、意外に使えなかったりするんだよね」
「ゲ、ゲームですか……」
キュティのこめかみを冷や汗が流れる。
遊び感覚で魔神を扱うなど、キッポン=ディンとは一体どれほどの存在なのだろう……。




