第35話 スライム、またしてもすべる
(うふふ、これで進化が相当近づいたかな? ……うっぷ、でもアルカリがぴりぴりする。苛性ソーダビームは多用していい技じゃないな……。生石灰なんて危険物、持ち歩くわけにもいかないし)
苛性ソーダまみれで金属成分も多い身体に若干苦戦しながら消化をしていると、
「化け物めっ! これ以上の狼藉は許さんぞっ!」
ぞろぞろと騎士が現れ、謁見の間になだれ込んだ。
遠巻きにキッポンを囲み、槍や剣を向けている。
「ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないよ」
「ス、スライムがしゃべったっ!?」
騎士に動揺が広がる。
こんな馬鹿げたサイズのスライムは見たことも聞いたこともないのに、あまつさえそれが言葉を発するなど誰も想像すらしたことがない。中には己の頬をつねるものまでいた。
「まっ、魔物め……! きっと魔神王から何かの力を与えられたに違いない……」
キッポンとしては全力の無害アピールだったのだが、逆効果だったようだ。
同じ失敗を何度もしているはずなのに学習しないのは、脳の役割をする細胞がいくら増えたとて、地頭や性根というものは変わらないという証明なのかもしれない。
「ま、待ってください! その御方は味方です! 我らの恩人です!」
そこに、若い女の声が響いた。
人垣を割って、紫のローブをまとった女がキッポンの前に進み出る。
(あ、ドライヴァルに襲われてたお姉さんだ)
ものすごい雷魔法を使っていた記憶がある。
スーパーボールモードで突入する直前、窓から見えたのだ。
タイミングがほんの少しずれていれば自分も直撃を食らっていただろうと思うと、ぶるりと身が震える。水分量の多いスライムの肉体に、電気はさぞ効果抜群だろう。
「キューテリオン様、それは本当でございますか?」
「ええ、本当です。宮廷魔導師の名にかけて誓いましょう」
「そこまでおっしゃるなら……」
キューテリオンなるお姉さんの一言で、騎士たちが得物を下げる。
(宮廷魔導師かあ。うふふ、本格的にファンタジーって感じになってきたな。いよいよ俺も魔法をおぼえるフラグだったり?)
と内心でにこにこしているキッポンの前に、キューテリオンが片膝をついてひざまずく。
「先程は危ないところをありがとうございました。また、王城を守ってくださったことを感謝いたします。小生はコロッセ王に使える宮廷魔導師キューテリオンと申す者。スライム……? ……殿? 貴殿の名前を教えてはいただけないでしょうか?」
スライムと殿に「?」がついたなあ、やっぱり俺みたいなスライムは珍しいんだな。それに、考えてみたらこの身体の性別もわかんないや。そもそも性別ってあるの?
なんて一瞬考え込んでいると、騎士たちがざわめいた。
「その者はキッポンだッ! 妾の命の恩人でもあるッ!」
「おおおおおおお! 姫様! ご無事であられましたか!!」
「あたしは付き添いのリーフ……って、誰も聞いてないや」
割れんばかりの歓声に包まれて現れたのは、ネイディとリーフの二人だった。




