第34話 スライム、現代知識でチートする!
「フハハハハ! 吾輩に勝てそうだと? その意気やよしッ! だが、今のは最後通牒じゃ。後戻りはできんから覚悟せよッ!」
ドライヴァルの両爪が一層激しく燃え立つ。
今の言葉に嘘偽りはない。
そもそも、加減ができるタチでもない。
次の一撃で決着をつける。
その意志を込めた炎だった。
「今のナシ! なんて言うつもりはないよっ!」
キッポンからドバーッと大量の粘液が発射される。
十字に振るったドライヴァルの爪がそれを切り裂き、蒸発させるが、今度は量が多い。蒸発させきれなかった液体がドライヴァルの身体を濡らす。
「まさか、今のが逆転の一手じゃと?」
だが、ドライヴァルにダメージの兆しはない。
落胆したように、大きなため息を吐く。
「もう少し何かやってくれるかと期待したのじゃがな。吾輩の見込み違いじゃったか。残念じゃが、死ねいッ!!」
燃え盛る鉤爪が襲いかかる。
キッポンは、再び形成したドリルでそれを迎え撃った。
「それも無駄じゃとわからんかあッ!!」
ガキィン!
鉤爪とドリルが交差して、
「何ィッ!?」
弾け飛んだのは、鉤爪の方だった。
根本から引きちぎれ、赤い血を引いて宙を舞っていた。
そしてドリルは、ドライヴァルの胸を背中まで刺し貫いている。
「ごふっ……馬鹿な……。吾輩の爪を……鱗を……どうやって……」
血泡と共に、絞り出される末期の問い。
「苛性ソーダさ。酸がダメならアルカリで、ってね」
「か、かせいソーダ……?」
「さっき焼いてくれた大理石のおかげだよ。大理石って、要は石灰岩だからさ。高温で焼くと生石灰――酸化カルシウムになる。これを水に溶かせば水酸化カルシウム、さらに木灰から集めた炭酸カリウムを混ぜれば苛性ソーダの一丁上がりってわけさ」
木灰は道中の焚き木から集めたものだ。「来たときよりも美しく」というキャンパーのマナーはやはり正しかったのだと、キッポンはしみじみ思った。
「で、いくら丈夫な爪や鱗でも、肉体と繋がっている以上は腱や筋肉――タンパク質でつながってると思ったわけ。それをアルカリで溶かしてやったってわけさ。爪も鱗も、剥がれちゃえば無力だろ?」
キッポンの説明が終わり、ドライヴァルはごぶりと血を吐く。
「そう……か……。よくは知らぬが……見事なり……。くくっ……吾輩はスライムに……知恵比べで負けたのだな……。これは……冥土のいい土産話になる……」
またしてもごぶりと血を吐き、うなだれた。
それと共に謁見の間を包んでいた血界竜爪呪の黒い網が消失する。
「ドライヴァル……。あんたも敵ながらあっぱれだったよ。味方フラグが立ってもいいくらいに……」
キッポンは、この好敵手に短い黙祷を捧げ、
「というわけで、俺の胸の中で生きていくんだっ! なんかドラゴンっぽかったし! 心の中から語りかけてくれてもいいからね!」
ドライバルの亡骸をばくんと飲み込んだ。




