第33話 スライム、魔神軍にスカウトされる
「そして貴様には斬撃のみでは効きが悪いようじゃ。ゆえに――」
――業炎竜爪
ドライヴァルの鉤爪が炎に包まれる。
白に近い青。
十歩以上の距離があるのに、熱波が体表を打つ。
鉤爪が振るわれる。
炎の斬撃が空中を走り、瓦礫に直撃。
大理石の塊が切り刻まれ、炎に包まれ灰燼の山と化す。
「血界竜爪呪で魔力を増幅しなければ使えぬ奥義よ。この絶火でおんしを燃やし尽くしてやろう」
ドライヴァルが凄絶な笑みを浮かべる。
それに対するキッポンは、
(やっべー、熱そう。直撃したらさすがに無事じゃすまなそうだなあ。よし、先手必勝だ!)
と、ぴゅぴゅぴゅぴゅっと粘液を吐きかけた。
白熱する鉤爪がそれを迎撃すると、ドジュッと音を立てて弾け飛ぶ。
あまりの高温に水蒸気爆発を起こしたのだ。
濃密な霧がドライヴァルの全身を覆う。
「ほほう、酸か。よく考えた……と言ってやりたいが、吾輩と戦う者の常套手段じゃの」
しかし、ドライヴァルは平然と霧の中から歩み出る。
全身を覆う鱗は青銅色の輝きを保ったまま、くすんですらいない。
「吾輩の故郷は硫酸沸き立つスルフリウム火山じゃ。酸の霧など蒸し風呂の代わりにもならん」
「酸も効かないかあ。ゴブリンくらいなら一瞬で骨も残さないんだけど」
「フハハハハ! ゴブリンなどと比べてくれるなッ! では、こちらも参るぞッ!」
ドライヴァルが突進する。
灼熱の爪が縦横無尽に大気を切り裂き、四方八方に余波が飛ぶ。
ひとつひとつがあらゆるものを溶かし、燃やす、超熱の斬撃。
結界に当たると霧散するが、これがなければ王城は一瞬で廃墟と化していただろう。
(ひええっ、半端ないな。でも、こっちだってやられっぱなしじゃないぞ!)
身体をぐねぐねと変形させ、猛攻を避けながら、粘液を硬質化させ鋭く尖ったドリルを形成。
大振りの一撃を外し、わずかに体勢を崩した隙に、
「くらえっ、1トンドリルブレイクッ!!」
全体重を乗せた反撃をドライヴァルの脇腹に突き立てる。
だが――
「フハハハハ! 甘いわッ!」
必殺を期したドリルは灼熱の爪で払われ、キッポンは体ごと吹き飛ばされた。
先ほどドライヴァルが燃やした瓦礫の灰に突っ込み、ぼふんと白い煙を上げる。
「うっそ。俺、体重1トンあるんだけど」
「フハハハハ! 魔力は身体機能も増幅させるのだッ! この血界の中ならば、百のバッファロータウロスと力比べをしても負ける気はせんなッ!」
「うひゃー、それこそチートじゃん……」
キッポンはもぞもぞと体を動かし、抗議する。
罰ゲームで小麦粉を浴びた芸能人みたいだな、とキッポンは思った。
「フハハハハ! チートなどではなく修行の成果よ。時にキッポンよ、最後に問うぞ。おんし、吾輩の仲間にならんか? 吾輩はおんしが気に入った。このまま殺すのはしのびない」
ドライヴァルが追撃の手を休め、語りかける。
騙している様子はない、どうやら本心のようだ。
「吾輩たちは強者を求めておる。ノミカユインを倒したのなら、空いた第九将に推してやるぞ。なに、裏切りを気に病むことはない。弱肉強食は世の摂理。おんしが悪いのではなく、強すぎる吾輩が悪いだけなのだからな」
「それは魅力的な提案だね――」
キッポンはずるりと一歩、前に出る。足はないが。
白い灰はすでに吸収され、緑の身体がエメラルドのようにきらりと輝く。
「――けど、たったいま勝ち方を見つけちゃったから、『負けそうだから降参した』って言い訳はできそうにないんだよね。残念」




