第32話 スライム、バラバラにされるが気にしない
(((((うわー、ズバッとやられた)))))
5つに分断されたキッポンだが、何も焦ってはいなかった。
バッファロータウロスのときもそうだったが、スライムにとって斬撃はさしたる脅威ではない。
(俺は正面から気を引くわ)
(俺は右から)(俺は左)(下からいくわー)(後ろから大技狙うね)
5体に増えたキッポンは、瞬時に作戦を決定。
4体が拳を形成し、殴りかかる。
「「「「おりゃりゃりゃりゃー!」」」」
「何ぃッ!?」
即座の反撃に、さすがのドライヴァルも驚愕する。
四方向からの同時攻撃に翻弄され、じりじりと後ずさった。
分割されたとは言え、分身の体重は200キログラム。
その攻撃は下手な人間の騎士などよりもずっと重い。
「ええいッ! うっとうしいわッ!」
「そうはさせるかっ!」
再び振るわれた鉤爪に、キッポンの一体が自ら突っ込む。
鉤爪は半透明の肉体を易々と貫き――きれずに、半ばで止まる。
「へへーん、これであの斬撃も自由に出せないでしょ」
「左手も抑えたよー」「右足オッケー」「左足もばっちり」
4体のキッポンたちが、ドライヴァルの四肢を封じていた。
そしてその背中に向かって――
「くらえっ! 200キロドリルブレイクっ!!」
「ぐおおおおおッ!?」
錐揉み状に高速回転するキッポンが体当たりした。
その尖端は円錐状に硬化させた分泌液で構成されている。
体内の鉄分を水酸化鉄に化合、ナノレベルで整列させたそれは地球で言うカサガイの歯と近似の構造を持つ。岩を易々と削りながら表面の苔を食べるカサガイの歯は、鋼鉄を超え、工業用セラミックに迫る硬度を誇るのだ。
「ぬおおおおおおッ!? まさか、吾輩の鱗がスライムごときにッ!?」
高速回転するドリルがドライヴァルの鱗を削り、その肉に届いた。
鋭い痛みがドライヴァルを襲い、
「フハハハハハハハハハハハハッ!」
哄笑と共に羽を開き、身体を竜巻のように回転させる。
「「「「「わわわわわっ!?」」」」」
暴風と遠心力により、キッポンたちが吹き飛ばされた。
広間の隅に吹き寄せられ、ひとつに合体する。
「面白いッ! 本当に面白いぞッ! 我が命に届き得る牙を持つ戦士よ。吾輩が痛みを感じ、血を流すなど何百年ぶりのことかッ!」
「いやー、ドリルモードでかすり傷とか、こっちがびっくりだよ。岩盤もサクサク掘れる性能なんだけど」
「フハハハハッ! キッポン、おんしは何も悪くないッ! 大地に勝る吾輩が強靭すぎるのが悪いのだッ!」
「別に悪いとも思ってないけどね。あ、いや、それは嘘かな。俺に出会っちまった、あんたに悪いなと思ってるよ」
「フハハハハッ! 舌戦でも吾輩に挑もうというわけかッ! 残念だがそちらには自信がなくてなッ! 悪いが、吾輩の得意でやらせてもらうぞッ!」
何を思ったか、ドライヴァルは自らの鉤爪で自分の胸を引き裂いた。
そして、鉤爪を振り回し、己の血を部屋中に撒き散らす。
「結ッ!」
床に、壁に、柱に、天井にまで飛び散った血を起点に、四方八方に黒い直線が伸び、謁見の間を覆い尽くす。まるで広間の全体が黒い網に包まれたようだ。
「我が奥義、血界竜爪呪よッ! この中では吾輩の魔力は十倍に跳ね上がる。何、安心せよ。余波で人間どもに被害が出ることはない。強化の代わりに外部には一切攻撃を及ぼせない縛りがある。一騎討ち専用の呪法じゃな」
猛獣のように笑うドライヴァルに、キッポンも人面を作って笑い返した。
なお、この笑いは強がりなどでは決してない。
また、作り笑いなどでも決してない。
ドライヴァルと同じ――
(すげー! 異能バトルみたいだ!)
――というわけでもなく、厨二バトル展開を純粋に楽しんでいた。




