第3話 エルフ少女、スライムに餌付けする
エルフの少女は、名をリーフと云った。
彼女が暮らす村は苦境に立たされていた。
近くにゴブリンの大きな群れが流れてきて、狩りに出られなくなっていたのだ。
駆除をしようにも数が多く、只人の街の冒険者ギルドに応援を頼んでいるが、報酬の折り合いがついていないらしい。
そんな中、業を煮やしたリーフは、大人に隠れて一人で狩りに出てしまった。
まだ幼い妹がお腹を空かせているのを見ていられなかったのだ。
そこでゴブリンに遭遇。
絶体絶命のところにさらに謎のモンスターに襲われた。
もともと限界を迎えていた彼女の精神はそこで意識を手放したのだが――
「……あたし、生きてるの?」
目覚めると、すっかり日が暮れていた。
最後の記憶は、一瞬でゴブリンどもの首をへし折った半透明の大蛇のようなモンスターだ。それが鎌首をもたげ、人面に変型し、魔族語に似た謎の言葉を発したところで気を失った。
「あのモンスターはどこに行ったんだろう……」
樹冠から差す月明かりを頼りに、暗い森に目を凝らす。
しかし、あの恐ろしいモンスターはどこにも見当たらない。
その代わり、奇妙なものが目に入った。
緑色の半透明の物体だ。
リーフのお腹くらいの高さの半球体。
見た目だけならスライムだが、こんな巨大なものは見たことがない。
それがぷるぷると震え、変型し、人面を形作る。
「ひっ」
思わず悲鳴を上げ、尻餅をついたまま後ずさろうとするが、木の幹が邪魔でさがれない。いまさら気がついたが、木の幹に背中をもたれた状態で失神から目覚めていたのだ。
「縺キ繧九?繧?、縺シ縺上?繧上k縺?せ繝ゥ繧、繝?§繧?↑縺?h」
人面が口を動かし、言葉らしき声を発している。
声の調子は威嚇するでも、怯えるでもなく、穏やかだった。
そのせいで、突飛な考えが浮かんでくる。
ひょっとして……
「あたしのこと、守ってくれたの?」
恐る恐る尋ねてみると、モンスターは少し考え込むようにぷるんと震え、それから人面を動かして頷くような仕草をした。
「まさか、本当に?」
そんなわけがない、と思うが、襲いかかられる様子は一向にない。
「冷静に考えると、食べるつもりならとっくに食われてるよね……」
完全に心を許したわけではない。
ないが、必要以上の警戒もする必要がなさそうだと結論する。
戦ったところで勝ち目がないし、ゴブリンを襲った素早さからすると逃げるのも無理そうだ。味方……とまでは言わずとも、敵ではないと判断して動くしかない。
「とりあえず、ありがとうってことで」
肩掛けの鞄から干した果実を取り出し、モンスターの前に放る。
貴重な食料だが、一応は命を助けられ、気絶していた間も見守っていてくれたらしい状況なのだ。礼くらいはしておきたい。
それに、腹が一杯なら急に気が変わって襲ってくることもないだろう。
そこまで考え、あることに気がついて背筋が寒くなる。
あること、というより、ないことに気がついたと言うべきか。
ゴブリンの死体が、ない。
「もしかして、食べちゃったの……?」
返事はない。
モンスターは干し果実に触手を伸ばし、体内に取り込んでいた。取り込まれた果実は一呼吸もしない間にあっという間に溶けて見えなくなった。
「あ、あたしは食べないよね……? 食べないで、ね……?」
リーフは半分泣きそうになりながら、村に帰る道を歩き始めた。
そのあとを一定の距離を保って謎のモンスターがついてくる。
本当は全力で駆け出したかったが、そうはしなかった。
理由は単純だ。
謎のモンスターを刺激するのが怖かったからである。
いつの間にか消えていてくれないかと期待して、少し進むたびに振り返ったが、モンスターはどこまでもついてきていた。
「菴輔@繧阪せ繝ゥ繧、繝?□縺九i縺ェ! 縺後?縺ッ」
「ひっ」
時折、突拍子もなく奇妙な声を上げ、人面をぐぬりと動かすのが、また恐ろしかった。




