第2話 スライム、エルフ少女と出会う
スライムが移動すると聞いて、あなたはどんな光景を思い浮かべるだろう。
きっと、ずるずると這いずるか、あるいはぽよんぽよんとゴム毬のように跳ねる姿を想像するだろう。
しかし、男の動きは違っていた。
身体を細長く伸ばし、うねらせ、地面に触れる部分の表皮を波打たせた。男の体は凄まじい速度で下草をかき分け滑っていく。全力疾走の馬よりも速く木々をすり抜け、瞬く間に声の発信源へと辿り着いた。
「髮「繧後m! 豁サ縺ォ縺溘>縺?!」
「ゲギャギャギャ! ギギャギャッ!!」
そこいたのは、四体の人型生物だった。
三体は小柄で、人間の子供くらいの背丈。光圧の感じからすると体色は緑色で、体毛はなく、吹き出物だらけの汚らしい肌に襤褸布を巻き付けている。手には粗末な木製の棍棒を握っていた。
残る一体も小柄だが、対峙する三体よりも頭ひとつ背が高い。体つきは華奢で、胸だけが大きく張り出している。植物性の繊維を織った衣服を身に着け、短弓に矢をつがえて威嚇をしていた。そして何より、この個体の耳は笹のように細長く尖っていた。
(エルフだ! エルフの女の子がゴブリンに襲われてるんだ!)
欣喜雀躍。狂喜乱舞とはこのことだ。
男は文字通りに身を躍らせ、細く伸ばした身体を三体のゴブリンの首に巻き付け、一瞬でへし折った。
転生当初は人間の脳みそほどだった身体は、百年余りの努力の末に百キログラムを超えて成長しており、アナコンダ並のパワーを発揮できたのだ。
「……お、お嬢さん。大丈夫でしたか?」
そして、勇気を持って話しかける。
自前の発声器官などないから、体内に空洞を作って肺の代わりとし、そこから押し出した空気をやはり身体を変形させて作った声帯、口腔、舌を通して声としている。
ややこしい説明になったが、要するに人間の頭を再現しているのだ。これもまた、男が百年にわたる修行の末に生み出した技である。
「繧ケ繝ゥ繧、繝?′縺励c縺ケ縺」縺?!? 蝌倥〒縺励g……」
「あっ」
しかし、男の勇気は報われなかった。
言葉は通じず、エルフの少女らしき生物は、気を失って崩れ落ちてしまった。
(気絶しちゃったかあ。しまったなあ)
男は困惑していた。
ラノベの主人公よろしく颯爽と現れて格好良く助けたつもりだったのだが、気絶させてしまったのだ。
冷静に考えれば当然だ。
エルフ少女からすれば、ゴブリンに襲われていたところに、もっと強力な魔物が現れたようにしか見えなかっただろう。
(言葉も通じなかったしなあ。人間に会えば自動翻訳スキルとか生えてくると思ったんだけど)
言葉が通じなかったのも誤算である。
前世に読んだラノベでは、だいたいの作品で自動翻訳スキルがあったのだが。
(現実はラノベみたいにはいかないか。ま、ハードモードの異世界転生も乙だよね)
しかし、男はめげなかった。
エルフ少女が目を覚ますまで、彼女の護衛をすることにしたのである。
初めて味わう食材、ゴブリンをのんびり消化しながら。




