第29話 スライム、王都に着く
翌朝。
一行は王都への道のりを急ぎ足で進んでいた。
フォレストサイドの救援の手配もそうだが、昨日の事件でバッファロータウロスの暴走に魔神王なる者の暗躍があったことがわかり、その危機をいち早く王都へ知らせるという使命も加わったのだ。
キッポンが運ぶという案もあった。
だが、大蛇モードで背に乗せたら、
「ぎゃぁぁぁああああ!? 死ぬっ、死ぬっ、いっそ殺してぇぇぇえええええ!?」
とリーフが叫び、ネイディでさえもおろおろと胃の中の物を戻していた。
めちゃめちゃ蛇行する大蛇モードは人間の三半規管が耐えられるような動きではなかったのである。
(高速移動用だと、あとは回転モードとスーパーボールモードがあるけど、どっちも人を乗せられる感じじゃないしなあ)
というわけで、高速移動は諦めて二人の足に合わせてずるずると地面を進んでいる。
ちなみにキッポンの通常移動は一種の貝類と同じ、腹足をうねうねと動かす方式だ。カタツムリのように粘液の跡を残したりはしない。
カタツムリも貝類だが、あちらは自ら分泌した粘液の上を滑って移動しているのだ。水分の消費が激しい代わりに、壁を登ったりできる。キッポンにも可能だが、今はわざわざやる必要がない。
乗せられない代わりに、荷物はキッポンが運んでいる。
二人とも遠慮したが、「力仕事は男の仕事さっ!」と押し切った。
なお、キッポンが肉体的にオスなのかメスなのかは不明である。
何なら性転換をしたり、雌雄同体である可能性もある。
そんなこんなで進むこと二日。
草原の果てに城壁が見えてきた。
「おおっ、あれが王都かな?」
「うむ、あれこそが王都コロッセレギアだ。宿場に一切寄らない強行軍だったが、お主のおかげで最短でたどり着けたぞ」
「いやあ、むしろネイディもリーフも健脚で驚いたよ」
「ふっ、妾は軍務で鍛えておるからな」
「あたしも狩人だからねえ」
ちょくちょく小休止は挟んだものの、日中はほぼ歩き通しだったのだ。
前世の自分だったら一日もしないうちにへばっていただろうと素直に感心している。
それにしても、初めての人間の街である。
のんきな観光気分というわけにもいかない状況的なのだが、やはり心がウキウキしてしまう。
(走っていきたいけど、子供みたいにはしゃぐのも恥ずかしいしなあ。一人で行ったらモンスターと間違えられるかもしれないし。とりあえず、今はまだ見るだけで我慢しよう)
キッポンはぐにゅりと触手を頭上に伸ばすと、先端に目玉を形成した。
視力を望遠モードに調整し、王都の様子を一足お先に観察する。
(おおー、城壁は見事な石造り。作るの大変だったろうなあ。向こうに見える立派なお城は宮殿かな。あれ、なんか様子が変だなあ……)
疑問が浮かんだので、ネイディに尋ねる。
「ねえねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「なんだ?」
「お城っぽいところがあちこち壊れて煙が上がってるんだけど、それって普通じゃないよね?」
「何ぃッ!? まさか、魔神軍とやらが王都まで襲撃したとでも言うのかッ!?」
「あ、やっぱり普通じゃないんだ。それじゃ、ちょっと先に行ってくるね」
「おっ、おいッ! 待てッ!」
キッポンはその体を球体に丸めると、王都に向けて猛スピードで転がり始めた。




