第28話 スライム、初めての野営
「えっ、勢い余って燃やしちゃったの!?」
「否ッ! 勝手に燃えたのだッ!」
リーフに問われ、ネイディは慌てて首を左右に振った。
「おそらく、魔神王を裏切ろうとすると発動する誓約魔術がかけられていたのだろう。爆弾付きの首輪のようなものだな」
「何それこわっ!? そんな魔法を部下にかけるなんて、魔神王ってひどいやつだね」
「まあ、魔神王などと名乗る者がまともなはずもないなッ!」
ネイディは、キッポンに向き直った。
「すまぬッ! せっかく生け捕りにしてくれたのに台無しにしてしまったッ! この通りだッ!」
「いやいや、ネイディが謝ることじゃないよ。防ぎようもないし。それに、よくあることだしね」
「寛大な言葉、痛みいるッ! ……ん? よくあること、だと……?」
「うん、親の顔より見たくらい。いや、いまのは流石に言葉のアヤね」
キッポンは、前世のラノベやマンガを思い浮かべていた。
その中で、重要な情報を漏らしそうになった敵がこんな風に始末される展開は何度も読んだことがある。
しかし、ネイディはそんな風には思わない。
まさかフィクションのことだなどと想像もせず、
(死体も残さず焼き尽くすような誓約魔術は超高位の術師でなければ不可能だ。だが、キッポンはそれを何でもないことのように……。亜神だとか言う話、半信半疑ではあったが……。ひょっとすると、キッポンとの出会いはコロッセ王国にとって天佑なのかもしれん)
と真剣な顔で考え込み始めた。
その深刻な表情を見たキッポンは、
(うーん、ネイディが明るいから気にしてなかったけど、冷静に考えたら王国のピンチなんだよな、たぶん。街もひとつ滅ぼされてるし。大したことはできないけど、夕飯くらいは豪勢にしようかな)
と、若干見当違いなことを考えた。
そして、体内でさっきおぼえた麻痺毒を合成し、手近な木に向けてぶしゅーっと霧状に吹きかける。
「なっ、何してんの!?」
「また敵襲かッ!?」
「いやいや、そうじゃないから安心して」
樹上から、バサバサと気絶した鳥が何羽も落ちてくる。
「なんか大変だったし、夕飯は焼き鳥パーティなんかどうかなって思って。あっ、もう真っ暗だね。薪も俺が集めてくるよ」
と、しゅびびびっと触手を伸ばし、野営に十分な量の枯れ木や落ち葉を一瞬で集めた。
「す、すご……。便利すぎる……」
「むむ、キッポンがいれば、行軍が驚くほどスムーズになるぞ……」
「ふっふっふ、そうだろうそうだろう」
唖然とする二人に、キッポンはご満悦である。
しかし、キッポンにできるのはここまでだ。
「でも焚き火とか林間学校でしかやったことないし、料理もダメだから、あとはお願いしていいかな?」
「うん! 任せて!」
「王国流陣中食の真髄を見せてやろうッ!」
その晩は、三人で豪快な鳥料理に舌鼓を打ちながら更けていった。
なお、出立の際はキッポンが食べ残しや焚き火の跡をすべて消化したので、片付けも実に見事なものである。
「来たときよりも美しく、がキャンパーのマナーだよね!」
という無駄なこだわりからだったが、そんなマナーなど聞いたこともないリーフとネイディは「また変なことしてるなあ」と思うだけだった。




