第26話 スライム、渾身のアリーヴェデルチ!
(やっぱりスライムがしゃべるのは珍しいんだなあ。そういえば、原作でもしゃべるスライムなんて主人公以外には登場しなかったような)
『原作』なんて言っているが、キッポンが思い浮かべている作品とこの世界は何の関係もない。あくまでもキッポンの勝手な思い込みである。
「えっと、ノミカユインって言ったっけ? 痛い思いをしてから情報を吐くのと、痛い思いをせずに情報を吐くのとはどっちがいい?」
それっぽいことを言っているが、それっぽいだけである。
まずもって状況がよく飲み込めていないのだが、「異世界転生したら言ってみたいセリフ」をなんとなく消化しているだけだった。
「な、何を言って……。はっ、そうか! 魔物使いの腹話術だな! そんなチンケなトリックには騙されねえぞっ!」
「……腹話術って……、あたし、痺れてるんだけど……」
「はっ!? そうだった!」
ノミカユインが半歩後退り、キッポンに向けて身構える。
「め、面食らったが、たかがスライムじゃねえか。俺様は魔神軍第九将、飛蚤のノミカユイン様だぞ。てめえみてえな三下モンスターがかなう相手じゃねえ。てめえのご主人様はこのとおり無力化した。とっとと野生に帰っちまいな」
「ご主人様……?」
「……ちがっ、ちがうから……」
キッポンが首を傾げ(わざわざ人の頭を作った)、リーフが青い顔をした。なお、本当は「あたしはそんな失礼なこと考えてないですから!」と続けたかったが、痺れで舌が回らない。
「そうだ、ちげえんだよ。もうご主人様でもなんでもねえ。だから消えな」
「そうか……ご主人様じゃない……」
(何言ってんの!?)
意味深に首を振るキッポンの言葉に、リーフが内心で全力のツッコミを入れる。
「つまり――」
キッポンの身体がぐにゃりと変型し、大きな拳を作る。
「お、最後に自分を支配した元ご主人様をぶん殴っていこうってか。ひゃははっ、それくらいは許してやるぜ」
(や、やめて……。めちゃくちゃ言いがかりなんだけど……!?)
リーフのこめかみに、冷や汗が特大の雫を作る。
だが、そんなものはおかまいなしに、必殺の意思が込めた拳が放たれる!
(やめてぇぇぇえええええええええ!?)
「つまり、友だちってことだぁぁぁぁあああああっっ!!」
「ぶゲらッ!?」
しかし、その行き先はリーフではない。
半透明の拳がノミカユインの土手っ腹に突き刺さっていた。
「これはリーフの分っ! これはネイディの分! それからこれは……フォレストサイドのみんなと、バッファロータウロスの分だぁぁぁぁああああっっ!!」
「ぐえええええええええーーーーッッ!!」
「アーリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!」
「ぎゃやああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッッ!!」
拳のラッシュがノミカユインを打ちのめし、天高く吹っ飛ばす。
(フォレストサイドの人なんか誰も知らないし、バッファロータウロスは自分で殺してるじゃん……)
唖然とするリーフだが、心の声はもちろんキッポンに届かない。
届いたところで、「てへぺろ」とか適当な反応が返ってくるのが関の山だろうが。
何しろ、とくに何も考えずに言ってみたかったセリフを口にしているだけなのだ。
「アリーデヴェデルチ! さよならだ」
いつの間にか八頭身の人型になっていたキッポンの右手が二本指を立てるのと同時に、ノミカユインの身体がドォーーーンと草原に落下した。




