第23話 スライム、初めてのツッコミ
「何者だって言われても。ええっと、あたしはエルフのリーフだけど、あなたは?」
「むむっ! 妾としたことが失礼をしたッ! 名を尋ねるならば自分から名乗らねばなッ!」
姫騎士は金の長髪をばさりとかき上げると、胸甲に右拳を当てて背筋を伸ばす。その身を包む豪華な金属鎧がガシャンと音を立てた。
「妾はシネイディア・ク・コロッセ! フォレストサイドの太守にして騎士団長、コロッセ王家の第三王子であるッ! 親しいものはネイディと呼ぶぞ!」
「ええっと、それでそのネイディさんはどうしてそんな箱に入っていたんです?」
「うむッ! これは王家に伝わる護りの棺でなッ! 中に入ったものをあらゆる災いから防ぐと云うッ! 我がフォレストサイドがバッファロータウロスめの大群に、今まさに陥落せんとしたときッ! 副騎士団長のモーナマエ・デ・ナーイが妾を棺に閉じ込め――」
ここで、ネイディは慌てたように左右を見回した。
「――ここは、どこだ? モーナマエはどこにいるッ!?」
「えっと、ここはフォレストサイドの北にあるエルフの村ですよ」
「なんと……では、モーナマエは……。くっ、みなまで言うな。状況は理解したぞ」
何も説明してないのに、本当だろうか。
「バッファロータウロスを操り、街に放ったのは貴様らだったのだなッ! 目的は妾を攫い、身柄と引き換えに王国を脅迫する企みであろうッ! だが、あえて虜囚の辱めは受けぬッ! さあ、殺せッ! ただしッ、一人でも多く冥土の道連れにしてくれるわッ!」
「あっ、やっぱぜんぜん理解してなかった」
剣を構える姫騎士に、リーフは半眼を向ける。
「えっと、一応あたしたちが助けたんですよ。たまたまですけど」
「主に俺がねっ!」
「ひっ!? 化け物ッ!?」
キッポンが腕を形作って親指を立てると、ネイディは思わず半歩下がった。
ついでにリーフたち、エルフの血の気も引いた。
この恐ろしい亜神を怒らせてしまったら、一体どんなことが起こるかわからない。
すぐにでも逃げ出せるよう、片足を引いて体重をかける。
「だいじょうぶ。ぷるぷる、ぼくは、わるいスライムじゃないよ」
しかし、予想した悲劇は訪れなかった。
亜神キッポンは怒るどころか、裏声を出しておどけた声を出していた。
「そうか。強大な神からすれば人間なんて所詮羽虫程度の存在。多少の暴言なら気にも止めないんだな……」
ケンジーヤが小声でぶつぶつ言いながら、手帳に何事か走り書きをしている。この言葉もキッポンに聞こえているんじゃないかとリーフはひやひやしたが、とくに咎められる様子もない。ケンジーヤの予想通り、意外に心が広い神なのだろうか?
「だいたい、俺らが誘拐犯なら姫騎士さんの名前を聞いたりしないでしょ」
「うむッ! 言われてみればその通りだなッ! 命の恩人に失礼をしたッ! お詫びにこの首をくれてやろうッ!」
「いや、首は要らないんだけど」
キッポンは、この世界に転生して初めのツッコミが出来たことをちょっぴりうれしく思った。




