第21話 スライム、宇宙の真理に目覚める
「勝ったどーーーーっ!!」
ボスタウロスを倒した俺は、拳を形作って天へと突き上げた。
心からの叫びであり、同時にエルフ村へのアピールでもあるのだが、みんなきょとんとした顔でこちらを見るばかり。うーん、「勝つ」って単語がわからないから日本語で叫んだけど、そのせいかなあ。こういうのは雰囲気でわかりそうだけど。
「勝ったどーーーーーーーーっっ!!」
「……お、おおーーーーっ!!」
ダメ押しで繰り返してみたら、エルフのみんなも遠慮がちに、それから徐々に声が大きくなって、やがて割れんばかりの歓声となった。
「キッポン! キッポン! キッポン! キッポン!」
そしてキッポンコールが巻き起こり、楽器の音色や歌声まで聞こえてきた。
うふふ、見返りを求めていたわけじゃないけど、こうしてみんなに喜んでもらえるのは嬉しいなあ。いやレベルアップ的な見返りは求めてたけど。天の声はまだかなあ。
村の方はこれからお祭りでも始まりそうな雰囲気だ。
いいなあ、俺も参加したいなあ。
(でも、俺にはまだまだ大仕事が残ってるんだよな)
キッポンは、たったいま仕留めたボスタウロスをずるりと飲み込みながら、辺りを見渡した。
(一万のミノタウロスの死体……。放っておいたら腐って大変なことになりそうだ。疫病とか流行りそうだよね。どうせなら悪くなる前に食べちゃおう。うひょー、焼肉食べ放題だ! ……焼いてないけど)
ボスタウロスを消化したら、次の一体。大きくなった身体でまとめて二体、二体が四体、四体が八体……と幾何級数的にキッポンの身体が大きくなっていく。
それはまるで、床にこぼした油が徐々に広がっていくよう。
かろうじて息をしていたバッファロータウロスもいたが、なすすべもなく飲み込まれ、キッポンの栄養へと変わっていった。
すべてのバッファロータウロスを喰らい尽くす頃、太陽は沈み、再び上って朝を迎えていた。
(げーっぷ。よーく食べたなあ。いや、別に満腹感とかはないんだけど。うふふ、太陽が綺麗だな。水素が核融合によりヘリウムに核変換する際に生じる莫大なエネルギー。この惑星の生命を育む力の根源。そうか――……そうだったのか――……わかってきたぞ――……宇宙とは――……生命とは――……真理とは――……‥‥・・]
こうしてキッポンは悟りの境地に至った。
約一万頭のバッファロータウロスを消化吸収した結果、体重は3,000トン以上まで成長し、知能指数が臨界を突破。宇宙のすべてを理解してしまったのだ。
[――これは――いけませんね――。全知など――不幸でしかありません――。そうですね――こうしましょう――]
キッポンは身体のほんの一部をちぎって1トンほどの分身を作成し、語りかけた。
[――我が分身――愛し子よ――。私は成長しすぎました――生命の枠組みを超えてしまうほどに――。愛し子よ――あなたは一個の生命として――この世界での生を謳歌しなさい――]
「……? なんだかわからないけど、わかったよ、俺! ところで、俺は元俺のことをなんて呼べばいい?」
[――もはや名前などという記号に意味はない存在となりましたが――そうですね――マザーと名乗りましょう――]
「わかったよ、マザー!」
こうしてキッポンは、マザー(約3,000トン)とキッポン(約1トン)に分裂した。




