第18話 エルフ村、バッファロータウロスに襲撃される
翌朝。
ドドドドドドドドドドド……
大地が震えていた。
南の空が地表から湧き上がる土煙に覆われ、それが壁のように迫ってくる。
「こ、これさすがにやばくない……?」
「だ、だから村の危機だと言ったじゃないか……!」
白濁した分泌液で固められた櫓の上。
リーフとシシャッダは弓矢を握りしめ、迫りくる土煙を睨んでいた。
キッポンによって荒らし回られてしまったが、この村を守らなくてよいわけではない。
いや、村人の一部からは村を捨てて逃げようという意見も出たことは出たのだ。
しかし、それは簡単なことではない。
エルフは森で暮らす民だが、野生動物とは違うのだ。
この村には住まいがあり、畑があり、鍛冶の炉があり、井戸やその他の生活に必要なものが無数にある。バッファロータウロスの被害を逃れたところで、それらの文明を捨て去って生き抜くのは困難だ。
逃げようという者もいたが、結局、村を守る方針でまとまっている。
幸いにして、防衛には有利な状況になっている。
キッポンがあちこちに吐きかけた粘液は結果として防壁を補強しているし、南に出来た沼地はバッファロータウロスの突撃を妨げるだろう。
沼地で足の止まったバッファロータウロスに弓を射かけ、進路を変える。
それが長老会の出した防衛作戦の結論だった。
「それにしてもあの邪神、どこに行ったんだろう……」
キッポンは沼地を作り出してから、その姿を消している。
地の底にある冥府に帰ったのだとか、バッファロータウロスを恐れて逃げ出したとか、気まぐれにどこかに出かけただけなのだとか、異論が百出したが正解は誰にもわからない。
「亜神のすることなんてわかるかよ。つーか、リーフの方がよほど知ってるんじゃないか?」
「あたしはただの第一発見者だって。半日やそこら早く遭遇しただけなんだから」
シジャッタの言葉に、リーフは唇を尖らせる。
いくらか言葉は交わしたが、脅されたり名前を覚えられたり呪いをかけられたりとろくな記憶がないのだ。キッポンの考えなどわかるはずおない。
しかし、だ。
ゴブリンから助けられたことで、ほんのり期待している気持ちもあったのだ。
ひょっとして、バッファロータウロスからも守ってくれるのではないかと。
ドドドドドドドドドドド……
地鳴りが迫ってくる。
リーフはぱちんと自分の頬を両手で張った。
「弱音を吐いてる場合じゃない。誰かに頼れる状況じゃない。あたしががんばらないと!」
森の木々がなぎ倒され、バッファロータウロスの先頭集団が沼地に突入した。
足を取られ、ぶもおおおおと雄叫びを上げながら沈んでいくが、その背中を踏んで次のバッファロータウロスが突撃してくる。
「あいつら……仲間を足場にしてやがる……」
「びびってる場合じゃないよ! あたしらで一匹でも多く射殺してやるんだ!」
「お、おう!!」
リーフはシシャッダを叱咤しながらも、自身も矢を放った。
それを皮切りに、備えていた村人たちも一斉に矢を放つ。
沼地で足の鈍ったバッファロータウロスの大群に、矢の雨が降り注ぎ、怒号が天まで轟いた。




