第16話 スライム、遠くを見つめる
どうやらエルフ村に危機が訪れているらしい。
キッポンはそう理解した。
多くの言葉がわからなかったが、白いトーガを身にまとったエルフ――ケンジーヤが黒板に丁寧な図解をしながら説明していたので、およその状況が飲み込めたのだ。
(なるほど、ミノタウロスみたいな魔物がこの村を襲おうとしているんだな。村の危機を救うなんて、いかにも異世界転生らしいイベントじゃないか!)
キッポンは内心で小躍りした。
いや、実際巨体をぷるんと震わせ、気づいたリーフがびくっとしていた。
「オレ ミテクル」
キッポンはそう言うと、身体を細く伸ばして集会所の大樹をずるりと登った。
「い、一体何をする気なの……?」
「とにかく、外に出て様子を見てみましょう」
リーフたちは集会所のうろを出て、大樹を見上げた。
キッポンは早くも大樹のてっぺんまで辿り着き、半透明の巨体をうねうねと蠢かしている。
(おお、登ってみるとすごい高いな。これなら森の外まで見通せるぞ)
大樹の頂上からの絶景に、キッポンは思わずため息をつく。
肺はないから気持ちの上だけだが。
東の先には海が見え、北と西は雪をかぶった山脈が続いている。
南には大草原が広がり、地平線の辺りにわずかに土煙が見えた。
(大群とか言ってたし、あの辺りかなあ)
南に意識を集中するが、さすがに遠すぎてよく見えない。
うーん、どうしたものかと考えて、キッポンは閃いた。
(たしかダチョウはものすごく目が良かったよな。理由は目が大きいからだってYoutubeの動物解説チャンネルで見たことがある。ってことは――)
キッポンは体に力を込め、全身でひとつの球体をかたどった。
眼球を模したのである。
(おお、これなら遠くまでくっきり見えるぞ。どれどれ――)
土煙をズームアップしていくと、そこには牛の頭をした人型モンスターの群れが見えた。その数は数千か、数万か。とても数えられそうにないほどだ。
(角が短くて毛がフサフサで、イメージしてたミノタウロスとちょっと違うなあ。西部劇のバッファローみたいだ)
しばらく観察していると、群れはこちらに向かって一直線に進んできているのがわかった。なるほど、確かにこれは村の危機っぽい。
(うふふ、さっそく大規模襲撃イベントなんて、ついてるなあ。きっとアレをやっつければ、進化やレベルアップのフラグが立つはずだ!)
キッポンがそんな風にテンションを上げているとき、
「きょ、巨大な目玉……」
「じゃ、邪神じゃ……」
「お、お、お助けを……」
地上では、エルフたちが震えながら樹上を見上げていた。




