第15話 エルフ村、危機襲来を知る
「ぎゃぁぁぁあああああああああ!?」
突如としてキッポンに侵入された集会所は阿鼻叫喚に包まれた。
狩人の長は弓矢を構えようとして長老の髭をつかみ、農業の長は長老の背中に隠れ、鍛冶兼大工の長は長老の膝をトンカチで叩いてビクッとさせ、そして長老は下着をちょっと濡らした。
「皆さん、落ち着いて。キッポン=ディンに我々に危害を加える様子はないようです」
いち早く冷静になったのはケンジーヤだった。
胡散臭いところのある男だったが、なんやかんや旅を重ねた経験があるだけ突発的な事態には強かったのだ。
「ご覧なさい。リーフも、シシャッダも傷ひとつ……ええっ!? シシャッダがぼろぼろに!? 大丈夫ですか、シシャッダ!?」
「だ、大丈夫です……」
触手から解放された傷だらけの若者――シシャッダがふらふらと長老の前に進み出た。
「お、おお、大丈夫かシシャッダ。まさかキッポン様にやられ……いや、ならば丸呑みにされているか。というか、お主は人間の街に使いに出ていたではないか」
「は、はい。ゴブリンどもを追い払うための援軍を請いに……。っていうか、長老会の命令だったんですけど」
「……ほっほっほっ、そうじゃったな。すまんすまん、それどころではない事態が生じてな――」
シシャッダから白い目で見られ、長老は大粒の冷や汗を浮かべながら、キッポンにまつわるあれこれを早口で説明した。番犬発言など、キッポンに直接聞かれてはマズイことはもちろん誤魔化している。
「――というわけなのじゃが。シシャッダよ。お主には一体何があったのじゃ?」
「は、はい! 村に危機が迫っているのです!」
「危機じゃと? こ、これ以上の危機があるというのか……」
長老の声が震える。キッポン以上の恐怖がこの世に存在するのかと。
「巨大な魔物の群れが人間の街を滅ぼしていたんです。現れたのは万を超えるバッファロータウロスの群れ……。私は命からがらなんとか逃げ出してこれましたが、群れはこちらに向かっています……!」
「何ィ!? バッファロータウロスだって!?」
長老を押しのけ、ケンジーヤが割って入った。
「あの成獣となると体重500キログラムを超える、野牛の頭に屈強な人間の身体を持ちつつも、足先は一本の蹄となっていて、そこは偶蹄目じゃないんかいと言われつつも剛力無双にして強力無比なモンスターであるバッファロータウロスの群れが人間の街を襲ったのですか!?」
「そ、そうですけど」
「あの人間の身体なのに反芻し、にもかかわらず奇蹄目というバッファロータウロスが、本当に!?」
「だからそうですって」
「穏やかな性質なのに、一度怒り狂うと手が付けられないほど凶暴になると言われるあのバッファロータウロスがっ!?」
「だからそうだって言ってるでしょ!!」
あまりにしつこいケンジーヤに、シシャッダは傷の痛みも疲れも忘れて思わず怒鳴っていた。
だが、ケンジーヤはまるでこたえた様子もなく、「そうですか。なるほどなるほど」と黒板に猛烈な勢いで現状とバッファロータウロスの生態についてまとめ始めた。




