第14話 スライム、村に侵入する
(やばいやばいやばいやばいやばいやばい名前をおぼえられた。これ絶っっっ対、「貴様の名前はおぼえた。二度と無礼は許さんぞ」的な宣告だよねこれぇぇぇええええ!?)
人面を奇妙に歪めるキッポンに、リーフは心の底から恐怖していた。
そして差し出された触手を、震える手で握り返した。
(呪いの刻印とか、そういう儀式かな……。うへえ、ぬるっとして気持ち悪い……。あ、でもひやっとして、ぷにぷにしてるのは気持ちいいかも……。ベッドの素材にいいかもなあ。ぬるぬるは嫌だけど、そこは干し草をかぶせたりして……)
半ば現実逃避していると、
「たっ、大変だ! すぐに長老様に……って、ええっ!? ここももう魔物に襲われていたのか!?」
傷だらけのエルフの若者が村の外から駆けてきた。
息も絶え絶えで、服もぼろぼろで泥まみれだ。
「どうしたのっ!? あ、この化けも……こちらのキッポン様は、だ、大丈夫だから! とりあえず長老のところで話を聞かせて!」
「お、おう? ありがとう、助かるぜ……」
リーフはまごついている男に肩を貸し、長老のところへ向かおうとした。
しかし、村にたどり着いたことで力を使い果たしてしまったのか、男の体がひどく重たい。
(ううっ、せっかく化け物から離れるちょうどいい口実ができたのに、重くてなかなか進めない……)
と、リーフが苦戦していると、
「オレ ハコブ。オレ マカセル」
「ぎえええええええええええええええええ!?」
キッポンから伸びた触手が二人をぐるぐる巻きにし、軽々と持ち上げた。
「やめっ!? やめっ!? た、助けてっ!! もごっ、もごもごっ……!?」
「ちょっ、こいつは問題ないんじゃなかったのか!? もがっ、もがもがっ……!?」
二人して手足をばたばたさせてもがくが、キッポンは意に介した様子もなく村の中を進んでいく。ついでに勢い余った触手が口を覆い、叫ぶことさえ封じられた。
なお、このときのキッポンの心境であるが、
(うふふ、エルフ少女とパーフェクトコミュニケーションの直後に怪我人の救出。これは好感度爆上がりだよね!)
などと浮かれていた。
(へえ、村の中ってこうなってるんだ。エルフの家ってツリーハウスみたいになってるんだなあ。畑もあるし、森の恵だけで生きているわけじゃないんだな。お、村の真ん中にはすごくでっかい樹があるんだな。目的地はあそこかあ)
もがくリーフの反応から目的地を察したキッポンは、1トン超の巨体をぷるぷると震わせながら村の中央――エルフの集会所ににゅるっと二人の身柄を届けた。




