第131話 「『ニッポン人』の正しい朝食って感じだよねえ」
「ほかほかの新米に、アジっぽい魚の開き、納豆に豆腐の味噌汁……。うーん、たまらないねえ」
屍鬼騒動が収まったあと、キッポン一行は都に近いオサカの街の旅館に滞在していた。
畳に座ったキッポンの前には膳に載った朝食セット。
箸を器用に使って、一口一口味わっている。
「この箸っていうの、ただの棒なのに慣れると結構便利だね」
隣にはリーフ。
箸のお尻を曲げた竹の薄板で繋いだトングのような箸を使って、豆腐をつまみ上げている。箸使いをおぼえる助けになればとキッポンが前世知識を参考に作ったものだが、この分なら普通の箸を使う日も近いだろう。
なお、この箸はとある商人の目に止まって、幼児向けのお箸トレーニングや外国人向けの大ヒット商品となるのだが、それはまた別の話である。
「豆腐に味噌、それに納豆に醤油……これらすべてが同じ豆から出来ているとは、大フソウの食文化はじつに興味深いですね」
納豆の小鉢を混ぜながらつぶやくのはキュティである。
最初こそ気味悪がっていたのだが、「頭がよくなるらしいよ」とキッポンが怪しい知識を吹き込んだら積極的に食べるようになった。いまは味変に凝っているようで、刻んだ葉ワサビの漬物を混ぜ込んでいる。
「うふふ、『ニッポン人』の正しい朝食って感じだよねえ」
(キッポン=ディンの食卓……。異界には大フソウに近い食文化が存在したということでしょうか。調理をせずに大食するのは、本来のキッポン=ディンの生態ではない? 供物が必要になったときは量よりも質を重視した方がよいのかもしれません……)
そして相変わらずキッポンのなにげない一言を深読みしている。
「ふむ、毒見なしで食べる食事が一番美味いな。熱々の汁物など宮中ではとても口にできん」
「へ、陛下。なぜまた遊びに来ているんですか……」
「ははは、いまの余はただの素浪人、ミコトである。陛下など知らん」
「勘弁してくださいよ……」
そして、帝とトモエも朝食をともにしていた。
帝は幼名のミコトを名乗り、市井の浪人のふりをしている。しているのだが、着物はやたら仕立てがいいし、物腰にも隠しようのない高貴さがにじみ出ている。まさか帝が市中をふらふら遊び歩いていると思うものはいないからいいが、「いいとこのボンボンのお忍びだろう」くらいには見られていた。
「余は龍神の裔としてあろうとするあまり、世情を知らなすぎた。これからは民と交わり、人としての目を養うのだ」
というのがこのお忍びの名目であり、実際本心であったのだが、最近は肩肘張らずに遊びに行ける機会を存分に楽しんでいるように見える。
あれやこれやの事情を知っているトモエが護衛兼お目付け役として引っ張り出されたわけだが、つい最近までお目見えどころか殿上すら許されなかった身分だ。日に日に胃の壁が薄くなっているような気がしてならない。
「さて、お昼は何がいいかな?」
「朝ごはん食べたばっかりなのにもうお昼の話?」
「じゃあリーフは宿に残るとして」
「えー、誰もそんなこと言ってないじゃん。あたしはオスシがいい!」
「そしたら港の方かなあ」
キャッキャと盛り上がるキッポンとリーフに、トモエが小さくため息をつく。
「また食べ歩きか……」
「なんだ、トモエは残るのか?」
「そんなことは申しておりませぬ! 陛下……ミコト様を放っておける道理がないでしょう」
そんなこんなで、一行はぶらぶらとオサカの港へ出かけるのだった。




