第129話 「あれ? 謎スライムたちじゃん」
数分後。
空からグライダー型に変形したキッポンがひらりと舞い降りる。
「ただいまー」
「おかえりー」
そして、地上に残した巨大キッポンがにゅるっと触手を伸ばして回収。
元の通りに一体化した。
「ウサギでもいるのかなって期待したけど、なんにもなかったや。ただの光ってる岩石って感じ。あ、でも上から見たら桃源郷っぽい場所はわかったよ。あっちに行けばいいみたい」
返事も待たず、巨体でにゅるにゅると荒野を進む。
その行く先は、月に照らされる木々が示す影の方角だった。簡単な謎掛けだったのだが、文字通り音速の力技で突破してしまった。謎掛けを考えた帝の先祖はさぞ悔しい思いをしているだろうが、この場にいない者の気持ちを考えても詮無きことである。
新高速モードで進むこと小一時間。
40キロメートルあまりを進んだ先に、それはあった。
光を放つ巨大な青銅の扉である。
龍と桃の木、そして人間の女のレリーフが刻まれている。
また補足になるが、この距離もまた謎掛けの一部である。
足場も悪く、荷物を持った徒歩ならば数日はかかる道のりであり、その間に謎の答えを疑って進路を変えれば迷うことになる。どこまでも変わらぬ荒野の景色は精神を摩耗させ、さらに単純すぎる謎掛けが疑念を加速させる――という仕掛けなのだが、快速で進んでしまえば疑念を抱く暇もない。謎掛けを考えた者は悔しさのあまり憤死してもおかしくないだろう。
ついでに言うと、道中ではしばしば魔物が襲ってくるのだが、描写すら不要な速度で処理をされ、キッポンの体重に変わった。
ともあれ、
「じゃ、行こっか」
何の感慨もなく扉に触手がかかる。
本来ならば帝室の秘事が明らかになる感動的瞬間であるはずなのだが、まったく苦労しなかったのだから仕方がない。帝ですら「あれ……? 帝室の秘事ってこの程度のことだったの……?」と若干認識が怪しくなっていた。
ずずずずず、と重低音を響かせながら、扉が開く。
しつこく補足をすると、実はこれも試練で、このままでは屈強な男が百人集まってもぴくりとも動かない重さがある。扉のレリーフに隠された謎を解くと自動で開くのだが、いまや100トン超の巨体である。(※体内の屍鬼の重量を除く)
単純計算でも体重100キロの巨漢1000人分のパワーがあるわけで、まああっさり開いてしまうわけであった。謎掛けを考えた者は(略
「おおー、明るくなった」
「急に見晴らしがよくなったね。狩りの獲物になりそうな動物もいるかな?」
「季節違いの果物が同時に成っていますね。桃源郷というだけあって、何かの力が働いているのでしょうか?」
扉の先は、蒼天の広がる果樹園だった。
桃だけでなく、梨や柿、リンゴやみかんなどの甘く爽やかな香りが漂っている。
「しかし、どこか見覚えがあるような……」
空を見上げるキュティの視線の先には、空中に浮かぶ島々が見えた。
そこには黄金色の鱗を輝かせ、翼を羽ばたかせる巨大生物。
「あ、あれは龍なのか!? 桃源郷とは龍神の住まう世界だったのか!?」
と帝が驚愕する中、
「あれ? 謎スライムたちじゃん。なんでまた竜界にいるの? 神殿は通してないと思うんだけど」
颶風と共に舞い降りたのはイムギだった。
キッポン、リーフが気軽に挨拶し、キュティがこれまでの経緯を簡単に説明する。
「りゅ、龍神と普通に言葉を交わしておる……のか……?」
「こ、これが龍神様なのですか!?」
「船乗りになっていくつもの海を渡ってきたけどよ、こんな間近でドラゴンを見るのは初めてだぜ……」
その光景に、帝、トモエ、デップの三人はあんぐりと口を開けて見つめることしかできなかった。




