第124話 「あっ、麻痺毒も混ぜたから」
自信たっぷりのグリーンジャックにリーフが疑問を口にした。
「失敗しないのはいいけど、どうやって治すの?」
「いまは治せん!」
「ええっ!?」
グリーンジャックのきっぱりした返事に、思わずずっこけそうになる。
「ウイルスの特効薬はワクチンだが、一朝一夕に作れるものではない。医術とはそんな簡単なものではない。人が生き物の生き死にをどうこうしようなどおこがましいとは思わんかね?」
「えぇ……じゃあ、諦めるの?」
「いつ諦めると言った! 人を生かさずして何が医術だっ!!」
「ひっ」
キッポン以上にコミュニケーションが取りづらい、リーフはそう思った。
「ウイルス性疾患を直すのにワクチンは必須ではない。例えば多くの風邪はライノウイルスが原因だが、ワクチンなどなくとも治る。キッポン!」
「おうよ!」
「クランケたちに温浴療法! それから適宜水分と栄養を補給だ! 人もまた動物、自然の一部なのだ。自然治癒力を侮ってはならん……」
キッポンがその巨体に屍鬼患者たちを取り込み、ヒーターモードで保温する。脱水の症状を呈している者が多いようなので、喉から触手を突っ込んで補給した。各種栄養素を加えた特製のキッポン汁である。
「心なしか、屍鬼どもの表情が柔らかくなったような……」
トモエが緑の粘体に包まれた患者たちに安堵のため息をつくが、
「あっ、麻痺毒も混ぜたから」
「えっ」
キッポンの一言で台無しである。
鎮静剤のつもりなのだが、ノミカユインの毒を分析して作ったものだからそんな言葉選びになったのだ。
「安心しろ! むやみに暴れて体力を消耗するよりも、痺れて動けない方が助かる見込みが増す! これは私の予想だが、これまで屍鬼になった者は魔物として討伐されたり、拘束して閉じ込めたりしていたのではないか? そんなことでは治るものも治らん!」
グリーンジャックに図星を突かれ、トモエはうっと呻いた。
これまで屍鬼が病気だなどとは考えたことがなかったのだ。治療を試みたことは一度もなく、屍鬼になった者は宮家の秘術によって呪いを祓うか、あるいは楽にしてやる以外の選択肢はないと思っていた。
「まさか、風邪と同じように治るなんてな……」
「そんなことは言っていない!」
「えっ!?」
安心する間もなく正反対のことを言われ、トモエが目を白黒させる。
「じゃ、じゃあ治らないのか……?」
「治らないとも言っていない! これは未知のウイルスなのだ。治るの治らないのと医者がいい加減なことを言うことはできない! だから、この病を私が治すのだ!!」
「は、はあ」
トモエは何が何だかわからなくなってきた。
当然のことで、グリーンジャック当人からして何を言っているのかわかっていない。勢いでしゃべってるだけで、例え医術の道を志そうとも根本はキッポンと何も変わっていなかった。
「やっぱ本命はワクチンだよなあ。都に行って、もらってくればいいのかな?」
「それが一番早い! が、このパンデミックだ。従来のワクチンが効かなくなっているのだろう。そちらも当たりつつ、本命は自然宿主の確保だな」
「なるほど、数百年に一度流行するってことは保菌してる生き物がいるはずだもんね。そいつからワクチンが作れれば間違いないと」
「そういうことだ! では、ゆけいオリジナルよ! 私はここに残って研究を続ける!」
「あいよ!」
キッポンはリーフ、キュティ、デップ、トモエを触手でひっつかんで体内に形成した制震室に取り込むと、諸島連合から大フソウへの過程でさらに成長した50トン超の巨体を震わせながら村を出発した。
「ね、ねえ、めちゃくちゃ落ち着かないんだけど……」
「放置すれば衰弱するでしょうし、致し方ないとは理解できるのですが……」
「り、理解できたからって納得できるもんじゃねえぞ……」
「な、何なのだこの化け物は!? このまま喰われはしないのだろうな!?」
無論、体内に取り込んだ屍鬼病患者たちも道連れで、目も虚ろな屍鬼病患者に囲まれての旅路であった。




