第122話 「ゾンビじゃん」
屍鬼とは、遥か神話の時代に猛威を振るった疫鬼だという。
これに取り憑かれた人間は正気を失い、同族を喰らおうと暴れ出す。屍鬼に噛まれた人間もまた屍鬼になり、ねずみ算的に被害を増やす。有り体に言えば――
「ゾンビじゃん」
というキッポンの感想そのままである。
(ゾンビ? ゾンビとは?)
キッポンのつぶやきにキュティの好奇心が刺激されたが、余計なことを聞くと事態の悪化を招く気がする。キッポンの世界にはそのような恐ろしいものが当たり前に存在したのだろうと無理やり好奇心を押さえつけた。
「そんなのが流行ったら、人間なんてあっという間に全滅しちゃうじゃん。大昔に流行ったときはどうやって切り抜けたの?」
「帝がなんとかしてくれたんだよ。いや、何とかしてくれたから皇帝になったって言やいいのかな」
リーフに尋ねられ、トモエが大フソウ龍帝国の建国神話を語った。
曰く、天より舞い降りた龍と、桃の木の精霊が結婚し、山奥でひとりの子を成した。その子供は見た目こそ人間だったが、その身には清浄な霊力を秘めていた。下界が屍鬼で滅びかけると山から降りてきて、瞬く間に屍鬼を祓ったという。
「で、その功績で帝になったってわけさ。いまの宮家もそのありがたいご先祖様の血を引いてる。屍鬼は数百年ごとに現れたが、そのたびに時の帝が祓ってくれたんだよ」
「祓うって、どんな方法で?」
「そんなの知るかよ。宮家の秘中の秘だ。将軍家や都の公家ならともかく、地方の下っ端領主の娘なんぞに教えてくれるもんか」
やり方がわかればオレが祓ってやるのによ、と舌打ちが続く。
「ふーん、でも王様が解決してくれるんなら心配いらないじゃん。なんかやばそうな雰囲気だったからびびっちゃったけどさ」
リーフが呑気な口調で言うと、トモエが顔をしかめた。
そこにデップが口を挟む。
「いつもなら帝が解決してくれるのに、今回はなかなか動いてくれない。あるいは動いちゃいるが解決してないってことか?」
「……そうだよ。でなけりゃ港を閉ざしたりするもんか。領民も家臣も何人も犠牲になってる。ちくしょう、都のやつらは何やってやがるんだ……」
トモエが俯き、握りしめた拳を震わせた。
さすがのリーフも事態の深刻さに気が付き、二の句がつげなくなってしまう。
「うーん、ゾンビに感染……。ウイルス系のパターンかなあ。帝の血統にはたまたまその抗体があって、それで血清を作ってたのかな。だけど長年のうちに血が薄まって、効かなくなっちゃったのかなあ。突然変異の線もあるけど」
「何?」
何やらわかった風なキッポンのつぶやきに、トモエが反応した。
「おい、スライムの化け物。お前は何か知ってるのか?」
「知ってるっていうか、定番だよね。ゾンビパンデミックの生き残りには抗体があって、それを使って解決するやつ」
「定番でも何でもいい! 知ってることがあるんなら教えてくれ!」
縋りつくようなトモエの叫びに、キッポンは「うん、いいよ」とあっさり応じた。




