第121話 (ゾンビパンデミック?)
先行したキッポンの目に飛び込んだのは、逃げ回る人々とそれを追う人々の姿だった。
追う方も追われる側も、粗末な木綿の筒袖を着た、キッポン流に言うならば「時代劇風の村人」である。
しかし、追う方には明らかな異常があった。
両手を虚空に伸ばし、ふらふらとした足取り。血走った目は焦点が定まらず、歯を剥いた口からは「オオオ……オオオ……」と獣のような唸り声。一見して正気でないことがわかる。
(何これ? ゾンビパンデミック?)
何だかよくわからないが、放っておける事態ではなさそうだ。
びゅびゅびゅびゅびゅっと粘液を吐き、ゾンビ風の人々をあっという間に絡め取った。
「し、屍鬼どもが止まったぞ!?」
「一体何が……?」
「み、見ろ! あっちに新手の化け物がいるぞ!」
正気な方の村人たちに指をさされたので、
「ぷるぷる。おれ、キッポン。わるいスライムじゃないよ」
「ひっ」
渾身のスマイルを浮かべたのだが、なぜか何人もの村人が腰を抜かした。
「化け物めっ! それ以上村に近寄ったら容赦しせんぞ!」
しかし、恐れぬ者もいる。
銛を片手に一歩前に進み出たのはよく日焼けした長身の女。
筒袖を腰に巻き付け、豊かな胸を晒しで覆い、肌もあらわな腹筋は見事なシックスパックに割れている。
(おおっ! 女蛮族キャラだ!)
銛を突きつけられるが、キッポンはむしろ目を輝かせている。(目はないが)
長身マッチョ褐色お姉さん戦士――キッポン的には大好きなキャラなのだが、世間ではあまり人気がないのか供給が少ないジャンルだったのである。できれば武器は銛ではなく、無骨な大剣か戦斧がよかったのだが、そんなリクエストを受け付ける存在はどこにもいない。
「トモエ! 待ってくれ! このスライムは怪しい者じゃ……いや、あからさまに怪しいが……少なくともお前らに危害は加えねえ!」
「デップ? どうしてこんなときに来た!?」
そこに割って入ったのがデップだった。
肩で息をしながら、キッポンは何者なのか、どうしてここに来たのかを早口で説明する。諸島連合に代わって偵察に来たという情報は伏せ、港の様子がおかしいから迂回してきたのだと説明する。
「ちっ、なんで上陸しちまうんだよ。素直に引き返してりゃよかったのに」
「はん、俺は商人だぜ? 得意先の様子がおかしいからっていちいち尻尾を巻いてたら商売にならねえんだよ」
デップの説明で、トモエと呼ばれた女は一応納得したようだった。
だが、キッポンを見る視線には未だ警戒心が含まれている。
「この人、デップの知り合いなの?」
「ああ、トモエはこの辺の領主の娘でな。商売でちょくちょく世話になってる。ここらの干物は献上品にもなる高級品で、エウロペでも引き合いが多いんだよ」
続くリーフの質問にも、デップは手短に答えた。
帝室への献上品は輸出が禁じられているのだが、そういう余計な説明はしない。
「小生にも聞きたいことがあるのですが……。この暴徒は一体何なのでしょうか? とても正気には見えませんが……」
キュティが粘液で捕獲された村人を観察している。
拘束された手足をがむしゃらに動かし、中には関節が外れている者もいた。近づくと歯をガチガチと鳴らして闇雲に噛みつこうとしてくる。
「何らかの呪いでしょうか? それにしては魔力の動きは感じませんが……」
「そやつは屍鬼だ。港を閉鎖したのは、そやつらの感染が国外に広がらないようにするため……いや、感染を知られたくないからだな」
「屍鬼?」
聞いたことのない単語に、キュティは思わず聞き返していた。




