第120話 (これ、村人どもにはどう説明したらいいんだ……?)
「お、港が見えてきたか。野郎ども、取舵いっぱいだ!」
「とぉーーーりかぁーーーじ!」
デップが進路変更の号令をかけ、操舵手が応じる。
キッポンの視点はマストよりも遥かに高く、見張り台からよりも遠くまで見渡せる。どうやら港側から発見される前に迂回が出来そうだとデップは安堵の息を洩らした。
「えっ、せっかく港が見えたのに何で真っ直ぐ向かわないの?」
「ああ、それはだな――」
リーフの疑問に、デップが応じる。
「国を閉ざしてんだろ? 正面から行って追い返されたらこれまでの苦労がおじゃんだ。下手したら捕縛される可能性もあるからな」
「むざむざ捕まるようなことはないとは思うけど」
緑の巨船にちらりと目をやるエルフの娘に苦笑いしつつ、
「だとしても、無駄にお尋ね者になるような真似はしたくねえからな。こういうときにこっそり使える入り江があるんだよ」
使うのは主に密輸業者だけどな、という余計な一言を飲み込んで、スパロウ号は波濤を割って進む。
デップ自身は密輸に携わったことはあまりないが、いざというときの備えは怠らない。海で生きるとは一筋縄ではいかないのだ。
§
スパロウ号は急峻な断崖に囲まれた入り江に投錨した。
カッター船で砂浜に乗り上げ、一行は大フソウ龍帝国の地を踏んだ。
水夫たちが簡単な野営地を作るのを尻目に、断崖に刻まれた細い石段を這うように登っていく――つもりだったのだが。
「ぬわぁぁぁあっ!?」
キッポンの触手に捕まり、一気に断崖の上まで運び上げられた。
崖の上には松林が広がっている。
「い、いきなり持ち上げるんじゃねえよ……!」
このまま喰われるんじゃないかとちびりかけていたデップだが、そんな怯えをみせるのは海の男の矜持が許さない。精一杯強がってみせるが、
「キッポンがいるとこういうとき楽だよね」
「旅に出たのに運動不足になるぞとネイディ様には叱られそうですが……」
すっかり感覚が麻痺している女性陣二人が平気な顔をしているせいで、虚しい強がりにしか見えない。どうやら誰も聞いていなかったことをいいことに、デップは先程の発言をなかったことにするべく咳払いをひとつ。
「ごほん。ええっと、この林を抜けた先に村があるんだが……」
断崖の縁に乗りかかる巨大な緑の半透明にちらと目をやる。
これが林を進んだら、すべての木々をなぎ倒してしまうのではないだろうか。
「ふうん、この先かあ。よし、早く行こう!」
しかし、その心配は杞憂だった。
巨体の一部がにゅるりと伸びて、大蛇のように木々の間を縫ったからだ。
(これ、村人どもにはどう説明したらいいんだ……?)
新たな心配を抱えたデップの耳に、奇妙な音が聞こえてきた。
それは喧騒――いや、怒号と悲鳴。
「うわぁぁぁあああっ! 来るなあ!!」
「かあちゃん、正気に返ってくれよお!」
「国軍は何をしてるんだっ!!」
(さっそく心配的中かよ!)
頭を抱えかけたデップだが、キッポンの先端はまだ林の中。村にはまだ入っていないはずだった。
(キッポンが原因じゃねえのか?)
と思い直したのも束の間、
「んんー? 何か揉め事かな? ちょっと見てくるよ」
「ちょっ、待てっ!」
デップの制止を置き去りにして、キッポンがにゅるりと高速で身体を伸ばした。




