第12話 エルフ少女、丸投げされる
「しゃしゃしゃ、しゃべった! あ、あああ、アレがしゃべったの!?」
「どうしたリーフ君。化け物Xの世話はちゃんとしてきたのかい?」
「それどころじゃないの! あ、アレがしゃべったのよ!?」
「アレとは化け物Xのことかい? 呼称は一意に定めないと意思疎通に行き違いが……」
「だーかーら! それどころじゃないんだって!!」
つい先ほど出ていったリーフがすぐに戻ってきたものだから、ケンジーヤを始め、長老会の面々は困惑していた。
しかしそこは年の功である。
最年長の長老がすっと前に出て、
「まあまあ、リーフや。少し落ち着きなさい。冷たいお茶でも飲んで」
「ごくっごくっごくっ、ぷはーっ」
興奮するリーフを落ち着かせ、優しく尋ねる。
「アレがしゃべったと言ったが、我々の言葉を使ったのか?」
「そう! そうなんです!」
やっと話が通じたと、リーフは長老の肩にすがりついた。
「にわかには信じがたいが……。何と喋ったのじゃ?」
「ええっと、『コンニチハ オレ キッポンディン』って……」
「キッポンディン!? 確かにそう言ったのか!?」
「は、はい。ちゃんと聞き取れてないかもしれないですけど……」
長老の剣幕に、リーフは思わずたじろいだ。
しかし、長老はそんなリーフが見えていないかのように、何事かぶつぶつと自問自答をしている。
「キッポン=ディン……。ディン……まさか、本当に……」
「ちょ、長老。一体どうしたんですか?」
「むうう……。これは儂の高祖父から聞いた昔話なのじゃが――」
長老が訥々と語りだす。
長命種であるエルフの長老の高祖父の話ともなれば、もはや神話の時代に片足を突っ込んだ大昔だ。
「ディン……それは『灰色の亜神』と呼ばれた神々の総称でな。光と闇の神々の大戦でどちらにも与さず、自由気ままに暮らしていたらしい」
「そんな神様がいたんですか?」
「うむ。高祖父も昔話で聞いただけらしいが、それはそれは恐ろしい神々だったそうじゃ。光の神にも闇の神にも、その怒りに触れて滅ぼされた者まであったそうじゃ……」
「か、神様を殺しちゃう神様ですか!?」
そんなものが存在したとは、リーフの背筋に寒いものが這い上がる。
「じゃあ、あのスライムもどき……キッポン=ディンは、その恐ろしい亜神なんでしょうか?」
「断言はできん。が、零落した亜神の一柱である可能性も否定できん。どこかに封印されていたものが、何かのきっかけで解放されたのかもしれんな」
「キッポンというのは……?」
「それはわからん。しかし、怒りを買わないよう細心の注意を払った方がよさそうじゃな」
「怒りを買わないようにって、具体的にどうしたら……」
「それもわからん。だが――」
長老は真剣な顔をして、リーフの肩をがっしり掴んだ。
「村の運命はお主にかかっておるぞ。頼んだぞ、世話係よ」
「えええええええーーーーっ!?」
まさかの丸投げに、リーフは思わず絶叫した。
しかし、理不尽でも村の運命がかかっているのは間違いない。
そのうえ、ついさっきも干し果実を投げつけて逃げるという無礼を働いてしまったのだ。
まずはそれを謝罪しなければ。
「キッポン様、さきほどは大変申し訳ございませんでしたッ! どうか、どうかお怒りをお鎮めくださいませッッ!!」
というわけで、亜神キッポンの世話係としての新たな一歩は、それはそれは見事なスライディング土下座から再開した。




