第11話 スライム、初めての異文化コミュニケーション
ゴブリンをたくさん食べたら、なんか頭の回転がよくなった気がする。
身体もかなり大きくなったし、栄養をたくさん摂ったおかげかな?
それとも、ひょっとして進化の前兆?
まだ天の声的なアナウンスは聞こえてこないけど。
声といえば、エルフたちの言葉がちょっとわかるようになってきた気がする。
周りでずっとガヤガヤされていたおかげだろうか。
よく使われている音のパターンやシチュエーションがなんとなくわかってきたのだ。
前世では英語もさっぱりだったんだけどなあ。
苦手意識を持っていたのがいけなかったのかな。
日本語が一切通じない環境に飛び込めば案外すんなりおぼえられるっていうし。
通信教育でも「聞き流すだけで英語力アップ」みたいなのがたくさんあったしな。
もっとたくさんリスニングすれば理解が進むかもしれない。
村の中に入れればなあ。
あっ、そうだ。
地中から触手を伸ばし、塀の向こうに伸ばしてみる。
うん、行けるな。
村の中の会話を聞くことができた。
ほうほう、道で出会ったときはこの言葉……と。
どうやらこれが挨拶みたいだな。
それで、男が自分自身を指すときはこの単語と。
なんだか、すいすいわかってきたぞ。
ふふふ、ひょっとして、俺って語学の天才だった?
――と、調子に乗っているが、別に男は語学の天才ではない。
原因は、巨大化したその身体そのものにあった。
スライムは細胞分化が未発達で、細胞の役割分担がされていない。いわば全身が目であり、耳であり、鼻であり、舌であり、筋肉であり……そして、脳でもあるのだ。
脳神経細胞と違って専門ではないから効率は落ちるが、多少の非効率などものともしない物量がある。成人男性の平均的な脳の重さは1.4キログラムほど。つまり、体重1トン以上を誇る今の男には、常人の700倍を超える脳が備わっているのだ。
そのおかげで、男は前世など比べ物にならない記憶力を得て、常人ではありえない速度での言語学習が可能になっていたというカラクリだった。
(言葉を覚えたんだから、次は使ってみないとな。リスニングだけじゃなかなか上達しないって聞いたし)
ちょうどよく、エルフの少女がやってきた。
最初に助けたあの少女だ。
いわばこの村で一番の馴染みである。
最初に話し相手にするにはぴったりの相手だろう。
(ええっと、最初はやっぱり自己紹介だよな。……って、俺の名前ってなんだっけ? まいっか。とりあえず日本人であることを伝えてみよう。先輩転生者がいる展開もあるあるだし)
人面を形成し、肺に空気をためる。
初めてのエルフ語だ。ちょっと緊張してしまう。
「コンニチハ オレ ニッポンジン」
「ひっ!?」
少女が青い顔で仰け反った。
あれ? 発音が悪かったかな?
もっと練習しないと。
「コンニチハ オレ ニッポンジン。コンニチハ オレ ニッポンジン。コンニチハ オレ ニッポンジン。コンニチハ オレ ニッポンジン……」
「縺励c、縺励c縺ケった!?」
知らない単語で叫びながら、逃げ出してしまった。
むむむ、何か間違ったかな?
少女が落としていった干し果実をつまみながら、俺は異文化コミュニケーションの難しさに思いを馳せていた。




