第10話 エルフ少女、スライムの成長に慄く
「で、デカくなってない……?」
スライムの世話係に任命されたリーフは、しぶしぶ村の入口に戻った。
両手に干し果実を抱えたリーフの目に映ったのは、様変わりしたスライムの姿だった。
もともとは、腰の高さほどだったスライムが、いまは見上げるようなサイズに巨大化していたのだ。高さで言えば、3倍くらいになっている。ほぼ半球形だから横幅も同様だ。
「な、なんでデカくなってんのよ……」
リーフの想像力が追いついていないが、理由は単純だ。
食べたからである。
ゴブリン50匹余り、重量にしておよそ2トン強を平らげたスライムは、その血肉を確実に自分のものとしていた。さすがにそのすべてを己の身体に変えたわけではないが、今や体重1トン以上に成長していた。
もともと、洞窟でわずかな苔や虫を食べて生きていた生物だ。食物の吸収効率が飛び抜けていた。餌を体重に転換する効率のことを餌肉転換率というが、スライムのFCRはおよそ2.0……2キログラムの餌で1キログラム増えるという、食用昆虫並の高効率を誇っていたのである。
「こ、こんなのが暴れたら、ひとたまりもないじゃない……」
スライムにのしかかられ、ぷちっと潰れる自分の姿を想像し、背筋が寒くなる。
こんなのを番犬として飼えるものなのか。ケンジーヤの浅はかな提案に、長老会は騙されてしまったんじゃないか。
「餌に毒を混ぜたら殺せないかな……」
そして即座に物騒なことを考える。
彼女は狩人だ。狩猟の際には毒を用いる。
例え急所を貫けずとも、猛獣やモンスターに致命傷を与えられる毒を何種類も知っていた。
だが、
「スライムに効く毒って何よ……」
スライムは生命力が強いモンスターとして知られている。
二つ三つに切ってもそれぞれが再生するほどだ。
おまけに何でも食べるため、毒耐性も相当高いと思われる。
その上、このモンスターは本当にスライムなのかも定かではないのだ。
「一体何なのよ、あんた……」
ぷるぷる震える半透明の巨体を前に、思わずため息をついたそのときだった。
「コンニチハ オレ ニッポンジン」
「ひいっ!?」
スライムの身体に人面が浮かび上がり、声を発したのだ。
「コンニチハ オレ ニッポンジン。コンニチハ オレ ニッポンジン。コンニチハ オレ ニッポンジン……」
「しゃ、しゃべった!? モンスターがしゃべった!?」
リーフは干し果実を半ば投げつけるように放り出し、背を向けて逃げ出した。




