第117話 (三国志みたいでカッコいい!)
「ええと、大フソウが小生たちの目的地だったのですが……」
キッポンの疑問に、キュティが嘆息を堪えて解説する。
米と醤油の産地は大フソウ龍帝国で、まさにそこへ向かう旅路だったのだが、旅程を説明しようとすると「待って! 見てのお楽しみにしたいから! めっちゃ気になるけど言わないで!」などと止めるものだから、これまで説明の機会がなかったのである。
「大フソウ龍帝国というのはですね――」
それは諸島連合の北、大陸東に位置する島国である。
島国と言っても南北に長く伸びる列島は広く、領土面積で言えば諸島連合の倍、コロッセ王国並みの国土を持つ。
龍帝国の名は、遥か太古に天より舞い降りた龍が桃の木の精霊と結縁し、それが帝室の祖先となったという建国神話に由来している。
「で、その龍帝国があたしたちに何の関係があるのよ?」
リーフが唇を尖らせる。
やっと陸地に上がったのに、どこにも出かけられないのが不満なのだ。海の上では時折マストに飛んでくる海鳥ぐらいしか狩りの獲物がおらず、フラストレーションが溜まっていた。
キアサージは少し考えたあと、もう少し情報を開示することにした。
相手は他国の貴族である。嫌疑不十分で解放するにしても、何の事情も説明せずに終われるはずがないし、嫌疑が正しかったとすれば追求の過程でどうせ明らかにすることになる。
「龍帝国はおよそ二ヶ月ほど前から港を閉ざし、国外からの船を厳しく制限しているのは知っているな?」
「いえ、存じませんが……」
キュティがデップに目配せすると、
「俺も知らねえぞ。俺は三ヶ月くらい前に龍帝国を出てコスタベイに行ったが、そんときにはいつも通りだったぜ?」
船乗りであるデップも知らないのだ。
キュティたちに心当たりなどあろうはずもない。
「大陸への密使ではなかったのか? 例えばそのコロッセの援軍を求めるためのな」
「援軍? コロッセと龍帝国とは国交はありますが、軍事同盟はありませんよ。海軍にも力を入れていませんし……」
龍帝国が援軍を求めるのならば、当然海軍戦力を欲してのことだろう。
そこまで口にしてから、キュティは諸島連合が警戒していたものについて、ようやく思い当たった。
「挟撃を警戒されていたんですね。龍帝国の入出港規制は侵攻の準備であり、呼応する外国勢力の存在を疑っていたと」
「……そうだ」
一拍置いて、キアサージは頷いた。
「であれば、もう疑いは晴れたと言ってよいのではないでしょうか。コロッセと龍帝国には、互いに結ぶ利がないことはわざわざ説明差し上げるまでもないでしょう」
仮に龍帝国が諸島連合に勝利したとして、コロッセが得るものは何もない。領土としては遠すぎるし、交易は今でも行われているのだ。龍帝国にしても援軍の期待できない相手と同盟を組む理由がない。
「何か別の思惑があるかもしれん。我らを降せば大陸の制海権は龍帝国が一手に握るようなものだ。そのうえで大陸を攻めるのであれば、コロッセにも利があるだろう」
「そんな不確かな未来の約束で我がコロッセが動くとでも――」
キュティとキアサージの舌戦が続く。
互いに国を背負っているのだ。安易には退けない。
そんな緊迫した場面を、ただひとりまるで場違いな感想を持って眺めている者がいた。
(国同士の駆け引きとか腹の読み合いとか、三国志みたいでカッコいいじゃん!)
言うまでもない、キッポンである。




