第112話 「貴船には僚船がいたはずだ。どこに消えた?」
『こちらは諸島連合海軍第三艦隊! ただちに帆を畳み、停船せよ! 臨検を行う! 従わない場合は実力を行使する!』
魔道具によって拡大された声が大海原に響き渡った。
「ちっ、泣く子も黙る第三艦隊ってこたぁ、諸島連合も本気じゃねえか。おい、野郎ども! 急いで帆を畳め! 間違っても得物を構えたりするんじゃねえぞ!」
デップが水夫たちに指示をする。
諸島連合海軍第三艦隊は海上警備を主任務とし、もっぱら海賊や大型海魔の退治に従事する部隊だ。任務の性質上、船足の速い艦船で構成されており、逃げおおせるものでもない。
「たかが幽霊船一隻への対応にしちゃ大げさすぎねえか……」
スパロウ号を囲んでいく大型船の群れを見ながら、デップは呟く。
いずれも排水量で言えばスパロウ号の倍以上はあろう超大型船。弩砲や投石機も搭載しており、このまま戦争に向かえる陣容に思える。隣に並んだ戦艦から鈎縄が何本も投げ込まれ、スパロウ号は蜘蛛の巣に絡め取られた小虫のように雁字搦めにされた。それから踏み板が渡され、水兵がぞろぞろと乗り込んでくる。
二十名あまりが乗り込んだのち、水兵たちは左右に分かれて整列する。
その間を、海軍制服をびしりと着こなした青年が悠々と進み出た。
「私はキアサージ少将だ。当艦隊の責任者である。この船の船長は誰かね?」
「自分です。デップと申します。一体何があったんですかね? 俺たちァ、ただの交易商人なんですが……」
「質問はこちらからする」
「…………」
見張り台から降りていたデップが応対するが、感情の感じられない言葉ではねつけられた。ただ事務的だとか、高圧的だとか言うことではなく、その目には力強い意思を感じる。若造だからと侮ると火傷しそうだ。諸島連合は若い国家で、貴族が存在せず実力主義社会である。このキアサージという若造も地位に見合った切れ者なのだろう。
「まず聞きたい。貴船には僚船がいたはずだ。どこに消えた?」
「何のことですかねえ。うちはこのスパロウ号だけでやらしてもらってるんですが」
「しらを切っても無駄だ。貴様らが隠す前に船影を確認している。同サイズの船があったはずだ。緑色でマストなしの奇妙な船がな」
「……っ!」
見られていた。
海上での索敵距離はマストの――見張り台の高さに比例する。相手はスパロウ号の倍以上の威容を誇る巨船が何隻もある。おそらく、こちらが見つけるずっと前から発見されていたのだろう。
キッポンには艦隊の発見直後に隠れるように言った。瞬く間に変身を解き、即座に海中に潜んだのだが、遠目では詳しく見えなかったのだろう。突然かき消えたように見えたはずだ。
「そりゃ不審にも思うよな……」
思わずぼやきが口をつく。
後ろめたいことはないのだから、最初から隠れずに堂々としていた方がよかったかもしれない。しかし、それはそれで魔物として問答無用として攻撃を受けた可能性がある。一体どうすればよかったんだ。せめて、このまま見つからずに隠れていてくれよ……とデップが唇を噛んだときだった。
「こんにちは! 俺はキッポン! ぷるぷる、ぼくはわるいスライムじゃないよ!」
「「「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!?」」」
色々な意味の感情を含んだ悲鳴が海上を彩った。
巨大な緑の目玉が、海面からぬうっと伸びていたからである。




