第109話 「うるせェ!! いこう!!」
「うーん、米と醤油がほしい……」
「キッポン様、こちら煮干しでごぜえます」
「豆のソースだっけ? そんなの簡単に作れないの?」
「キッポン様、朝どれの海藻でごぜえます」
「独特な製法の発酵食品ですので、自作は難しいでしょうね。小生も調味料の製法には詳しくありませんし」
「キッポン様、おかげで膝の痛みが軽くなった気がします。ありがてえ……ありがてえ……」
宿の食堂である。
キッポンたちが朝食を食べていると、街の住民たちが入れ代わり立ち代わりやってきて、お供え物を置いていく。ウミダマ様を調伏し、キュティがその正体をエルフの守り神だと説明して回ったことで、すっかり神様扱いされてしまっているのだ。
「おお、この方こそキッポン様の御本尊!」
「神々しい緑……包まれてみたい……」
「ああ、私も教主ポーター様のように聖物を賜りたいものよ……。はっ、こんな私欲に囚われているなんて!? どうか哀れな信者をお赦しください……」
さらに、毛氈を敷いて拝礼を繰り返している一団がいる。
叡智の塔からやってきた「緑の神秘教団」というらしい。
キッポンズの世話を任せたポーターが立ち上げた宗教団体らしいのだが、恐ろしいので詳細はあえて聞いていない。
こんな感じで身辺がすっかり騒がしくなってしまったこともあり、
「よし、東方まで米と醤油を食べに行こう!」
ということになった。
日本人の舌が新鮮な魚介によって刺激され、日本の味を思い出してしまったのも事実だが。
コスタベイの主要産業は漁業だが、交易船の行き来もある。
一行は港に出かけ、海運ギルドで同乗を許してもらえそうな船を探すことにした。
交易船の目的は当然のことながら交易である。
旅客を乗せてくれる船などそうそう見つかるまいと思ったのだが……
「おお、キッポン様! あのウミダマ様を喰らったという!」
「ぜひうちの船に乗ってくだせえ! 〈海神喰らい〉のキッポン様が乗ってくださったとなりゃ、魔物も嵐も怖くねえや!」
「うーん、圧が強い……」
大人気である。
むしろ乗ってくれるのならば金を払うという者まで現れ、ならばうちはもっと出す、うちはもっとだと逆オークションまで開催される始末。
「東方までは大体1か月だっけ? 乗ってる間ずっとこの調子じゃしんどいなあ……」
これにはリーフとキュティも同感である。
二人も〈海神喰らい〉の従者として敬われているのだが、正直言って居心地はよくない。大体からして、ウミダマ様の件は完全なマッチポンプなのである。キッポンは気付いていないからまだいいが、二人は真実を知っているからいちいち罪悪感が刺激されるのである。
そんなとき、ギルドの端にいる男がぼそりと呟いた。
「けっ、何が〈海神喰らい〉だ。海はそんな甘いもんじゃねえぞ」
ドクロ柄のバンダナ、ドレッドヘアに無精ひげ。真っ黒に日焼けした身体を潮風で傷んだフロックコートで包んでいる。
男を見たキッポンは途端に目を輝かせ、
「見つけた! 俺が乗る船はあんたの船だ!」
「はっ? なんでオレがお前らなんかを……」
「うるせェ!! いこう!!」
「はあ!?」
これぞ「ザ・海賊」という風情の男に、キッポンはどーんという効果音が聞こえてきそうな勢いで食いついた。




