第108話 しゃべる巨大スライムなんて見たことあるやついるぅ?
(ナニナニナニナニ!? ナガネン イキテキテキタケド イヤ シンデルケド コンナ すらいむナンテ ミタコトナンデスケド?!)
異形の身体はバランスが悪い。
一度尻餅をついたらなかなか態勢を立て直せないのだ。
ウミダマ様はじたばたと異形の四肢を動かして路上でもがいた。
あと、カナ入力は地味に面倒くさいし読者も読みづらいだろうから次の台詞からは普通にする。
(私、何千人もの魂の集合体なんですけど? ねえ、誰か、しゃべる巨大スライムなんて見たことあるやついるぅ? ……いねーよなあ!)
ウミダマ様はパニックになりながら己を構成する魂たちに呼びかけるが、知っている者などひとりもいない。というか、恐慌状態に陥ってまともに返事をする者さえほとんどいなかった。
「うーん? 恐ろしい怪物が出たって聞いたけど、意外とそんなことないなあ……」
緑の怪物がぐねぐねと体を伸ばしてウミダマ様を覗き込む。
逃げ出そうと必死にもがくが、異形と化した四肢は言うことをきかず、ひっくり返った虫のようにその場であがくのみである。
「うーん? よく見れば……」
(いやぁぁぁぁああああ! 許してぇぇぇえええええ!)
巨大な人面がウミダマ様の視界を埋め尽くした、そのときである。
「えっ、めっちゃかっこよくない? このあたりのヌヒャアとした曲線とか、ミグッとした渋みというか。こう……見た瞬間ギムッと心を射抜かれたような……」
「えっ?」
てっきり喰われると思っていたら、よくわからないがなぜだか褒められている。
大悪霊として、あるいは祟り神として恐れられること幾百年。鎮魂のためのでっちあげの褒め言葉なら数え切れないほど聞いてきたが、どうもこのスライムには本心を感じる。
「ほ、ほんとに……?」
「うん、ほんとほんと! めっちゃカッコいい! いや、カッコいいなんて言葉じゃ足りないな……。神だよ、神!」
「うえへへへへ……。そ、そんなに?」
ウミダマ様の顔がぱあっと明るくなった。異形だが、それくらいはなんかこう雰囲気でわかる。わかれ。
まあ、一口に言ってしまえばデレたのだ。
あまりにも褒められ慣れていなかったため、キッポンの心からの称賛に即落ちしたのである。
「私……いえ、私たちにもう思い残すことはないわ……」
ウミダマ様の身体からぽわわ~っと蛍のような光が立ち上り、青空に消えていった。
「あれ? 動かなくなっちゃった? 壊れたのかな……?」
疑問に思ったキッポンは、石像をつついたり、ゆすったり、飲み込んだりした。
だが、当然そんなことをしても動くはずもない。
ちなみにここまでやってもキッポンは自作の石像だとは気付いていなかった。観察眼と空間把握力は造型の重要な才能であるが、キッポンにはこれが致命的に欠けており、ウミダマ様が動いたせいで同一のものとは認識できなくなっていたのである。
そして、この様子を隠れて見ていた町の人々は……
「み、緑の化け物がウミダマ様を喰い殺した……!?」
「ひ、ひとの言葉もしゃべっていたぞ……」
「ま、まだ脅威は終わっておらん。いや、いっそうの脅威が襲ってきたんじゃ! みんな、逃げるぞ!」
ますますの恐怖を持って街中を逃げ回ることになったのである。
この収拾に、キュティが汗みどろになるまで駆けずり回るはめになったことは言うまでもない。




