第103話 「神威滅殺暗黒剣さえあれば、他に欲しいものなど」
「あー、ダンジョンも制覇しちゃったし、次はどうしよっかなあ」
「竜の鱗、どうすんのよ?」
「あっ」
とある宿屋の食堂にて。
暇を持て余していたキッポンに、リーフが突っ込んだ。
「実際はまだまだ上階が存在しますが……」
「さすがはキッポン様! 叡智の塔などその深遠なるお智慧に比べれば浅瀬も同然ということですね!」
キュティが小声で突っ込むと、それをかき消す勢いでポーターが叫ぶ。
「ポーター君さ、冒険しないときまでついてくる必要ないよ? 荷物持ちとして雇ったんだし」
「何をおっしゃいますかリーフ先輩! 僕が報酬欲しさにキッポン様に仕えていると思っていたんですか?」
「ち、違ったんだ」
すっかり狂信者と化したキッポンに、リーフはドン引きしている。
なるべく穏便にお引き取り願いたいが、勝手に押しかけてくるものを追い返す手段もない。
「毒でも飲ませるか……」
「リーフ殿!?」
小声で恐ろしいことを呟くリーフにキュティが突っ込む。
「いやだなあ、痺れ薬とか眠り薬だよ。命に別状はないって」
「そういう問題じゃないでしょう……」
リーフまでボケに回ると深刻なツッコミ不足に陥る一行である。
キュティは色々な意味で疲れていた。
「竜の鱗ってさ、実際何に使えるの?」
「武器防具はもちろん医薬品にもなりますし、美術品としても無二の価値があります。魔道具に用いれば、その性能は飛躍的に向上するでしょう」
「へー、そうなんだ。で、魔道具ってどんなものがあるの?」
「どんなものと言われても……」
キッポンの質問に、キュティは言葉に詰まる。
魔道具は地球で言うところの電化製品のようなもので、用途は多岐にわたるのだ。改めて尋ねられると候補が多すぎて答えに困るのである。
「あっ、魔道具ならあたしアレがほしい。冷たくなる箱」
「冷蔵庫ですね」
「それそれ。村には長老の家と集会所にしかなかったんだよね。暑い日に冷たいものがいつでも飲めるなんて最高じゃん。肉の保存にも便利だし」
「竜の鱗の使い途がそれでいいんですか……」
リーフをきっかけに皆であーだこーだと欲しいものを挙げるのだが、貴重な竜の鱗を使ってまでほしい道具など意外にない。武具にしたところでキュティは今の杖が馴染んでいるし、リーフの矢じりに使えば失くしてしまうかもしれない。弓はバランスが重要なのでただ高級な素材を用いればよいというわけではない。
一番有力な案は包丁だが、手入れ要らずで切れ味が長持ちする包丁のために国宝級の素材を使うのはどうなんだという話である。
かといって、売り払っておしまいというも味気なくてつまらない。
「うーん、ポーター君は欲しいものある?」
アイデアが行き詰まってきたところで、キッポンがポーターに尋ねた。ポーターは竜の鱗の入手に何も関わっていないが、岡目八目を期待したのである。
「ぼ、僕は神威滅殺暗黒剣さえあれば、他に欲しいものなど何も……」
「ドラ剣かあ」
神威滅殺暗黒剣とは、ドライヴァルの鱗で作った剣のことである。ポーターがいつの間にか命名していたが、あまりの厨二ぶりにキッポンでさえその名を呼ぶのは憚られ、ドラ剣と称していた。
(ドライヴァルの鱗はなんやかんや便利だしなあ。貸すのはいいけど、あげるわけにはいかないし……。あ、そうだ!)
キッポンの脳裏に豆電球が瞬いて、
「今回の冒険はポーター君ががんばってくれたしね。ポーター君用の剣を作ってあげることにしよう」
そういうことになった。




