第101話 「亜神を支配する力があるんだよね?」
ケンジーヤは商人の邸宅の一角にある離れに滞在していた。
離れと言っても二階建てで、部屋数もある。
なんでも数代前の現当主に知恵を貸し、現在の発展をもたらした大恩人だということで、下にも置かぬ扱いを受けていた。
離れの居間に、キッポン、リーフ、キュティ、ケンジーヤが集まっている。ポーターは一度実家に顔を出すということで不在だ。ポーターは渋ったが、キッポンが「親孝行は若いうちにした方がいいよお」と訳知り顔で言ったらあっさり飛んでいった。
「ケンジーヤってなんか胡散臭いなあって思ってたんだけど、人脈は本物なんだね」
「胡散臭いとはなんですか。だいたいリーフは村にいるときから学問や知識というものをあまりに軽んじています。旅に出れば少しは目が開くかと思ったのですが。いいですか、なぜ学問が重要なのかと言えば――」
「あー、はいはい。悪かったですよ。これからは勉強もがんばりますー」
居間の端に置かれた黒板に何事か書きつけて説教を始めようとしたケンジーヤに、リーフが両手を上げて降参する。
「そんなことよりさ、注文のお宝取ってきたんだけど、結局何なのこれ?」
机の上に置かれているのは一本の短杖。
灰色に枯れたツタが捻じくれて絡まったような形で、先端には複雑な多面体にカットされた宝石が埋まっている。宝石は光のあたり加減で色も形も変わって見え、見つめていると頭の芯がぐわんぐわんと揺れるような感覚に襲われてくる。
「強い魔力を感じますね……」
「なんだか嫌な感じのする魔力だよね」
短杖から発せられる不吉な魔力に、キュティとリーフは眉をひそめている。
ケンジーヤはなぜこんなものを欲していたのだろうか。
「まあまあ、なんでもいいじゃないですか。ただ私の知的好奇心が向いた先がこれだったというだけのことで、わざわざお話するようなことでも――」
「亜神の杖って言うんでしょ、これ? 亜神を支配する力があるんだよね?」
「えっ」
キッポンの言葉に、ケンジーヤの顔が蒼白になる。
「な、なぜそれを……」
「杖が刺さってた祭壇に説明書きがあったよ。暗号化してあったけど」
「ど、どうしてそれが読めたのですか……?」
「うーん、力技かなあ。意味が通るように総当りにすればなんとかなったよ」
「そ、総当り……」
亜神の杖が封じられていた祭壇には、キッポンの言う通り暗号文が刻まれていた。総当たりで解読するには数億パターンの解析が必要なのだが、そこにたどり着いたのは超重量に成長したキッポンである。演算能力では人智を遥かに上回っていたのだ。
(ま、まさかケンジーヤ殿はキッポン殿を使役しようとしていたんですか!?)
ケンジーヤの目論見を察したキュティの顔も蒼白になる。
この奸計に、キッポンがどんな態度に出るか想像するだに恐ろしい。
ケンジーヤもあわあわと手を震わせて、この場を切り抜ける言葉を探しているようだが、その口はぱくぱくと動くだけでいつもの多弁が見る影もなかった。
「せっかく面白いものが手に入ったんだからさ――」
キッポンが人面を作り、にたぁと笑う。
「亜神を支配できるなんてすごいじゃん。独り占めなんかしないで、試してみようよ。俺は魔力が扱えないから、やってみてほしいな」
触手が亜神の杖を取り上げ、震えるケンジーヤの胸元にすっと差し出した。




