第100話 「終わりじゃ……この世の終わりが来たのじゃ……」
「ただいまー」
冒険を終え、キッポンたちは帰還した。
第二層から降りる螺旋階段は第一層の中央にあり、塔のようにそびえ立っている。
そこから現れたキッポンたちを待っていたのは無事を喜ぶ声――
「ひぃぃぃいいいいいっ!? ば、化け物だっ! 二層から化け物が溢れ出したぞっ!!」
――などではなく、阿鼻叫喚であった。
そりゃそうである。
十層までの往復で魔物を喰らい続けたキッポンは、いまや1500トン超の巨体に成長していた。25メートルプールおよそ3杯分といえば、その量がイメージしやすいだろうか。
昇降塔からにゅるりと顔(たちの悪いことにわざわざ人面を作っていた)を出したキッポンを、勇気のある衛兵や冒険者たちが武器を持って囲む。勇気のない者は逃げ出して、もっと勇気のない者はひざまずいて許しを乞うたり、泡を吹いて失神したりしていた。
「まあまあ、落ち着いてください。みなさん。この化けも……キッポン様はエルフの守神。叡智の塔の神秘に触れて神性を高めただけのことですよ。刺激しなければ危害を加えることはありませんのでご安心を」
その人垣を割って現れたのがケンジーヤである。
「お、おお、ケンジーヤ殿か。あなたがおっしゃるのなら……」
年嵩の衛兵隊長がケンジーヤの言葉を聞き入れ、ようやく武器が下ろされた。
ケンジーヤはなんやかんや顔が広いのである。この衛兵隊長も数十年来の付き合いだった。
包囲が解かれ、キッポンたちは街に降りた。
キッポンは体を細長く伸ばし、なるべく通行の邪魔にならないよう気をつける。
とはいえ体積が体積である。
およそ直径1メートルほどの太さにしたのだが、長さは1キロメートル以上になってしまった。
横切ろうとする人がいればぐにっと体を曲げ、通行の多い交差点では大きなアーチを作ったりしたのだが――
「だ、だるい」
さすがのキッポンも愚痴が出る。
踏まれようが錯乱した住人に切りつけられようが子供にトランポリンのごとく遊ばれようが、個々の出来事自体は別にどうでもいいのだ。主にストレスになっているのは通行人の邪魔にならないよう気を使う方だ。
無自覚に他人に迷惑をかけてばかりいるキッポンだが、他人に迷惑をかけられるよりも、かけてしまう方にストレスを感じる典型的日本人気質なのである。
というわけで、
「えー、一旦解散としまーす」
「「「「「おー!」」」」」
「分裂したっ!?」
ぷちぷちとほどよいところでキッポンの身体がちぎれる。
およそ1トンサイズに分裂したキッポンズは、ぼよんぼよんと跳ねながら街なかに消えていった。
街のそこかしこから、
「ひいっ、化け物!?」
「ま、魔物が攻めてきたぞー!!」
「終わりじゃ……この世の終わりが来たのじゃ……」
といった悲鳴が聞こえてくるが、キッポンは意にも介さない。
フォレストサイドの復興のときにも経験したことだ。
必殺の「ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないよ」を根気よく繰り返していれば、あとは時が解決してくれるだろう。
「い、いいのかな……これ?」
「さ、さあ……。小生たちにできることなどありませんし……」
「おお! キッポン様が街じゅうに! 叡智の塔が、この大地が! あまねく神の威光で満ち溢れんことを!」
リーフとキュティは小声で相談し、ポーターは歓喜の笑顔を浮かべてキッポンを讃える祈りを高らかに歌い上げていた。




