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翌日、チェックアウトの時間に杏奈ちゃんと受付前で顔を合わせた。
「ご宿泊、本当にありがとうございました。またのお越しを心からお待ちしております」
心くんに最後まで丁寧に見送ってもらって、私たちはアクアマリンの扉を出る。タクシーが来るまであと三分と聞いている。黒髪をふわりと揺らす杏奈ちゃんに向き合った。
「杏奈ちゃん、楽しかったわ。これ、餞別」
私は心くんがプレゼント用に包装してくれた箱を、杏奈ちゃんに渡した。彼女は目を瞠る。
「え、え?! これってもしかして昨日のネックレス? あかんってそんなん、めちゃ高かったのに」
「受け取ってや、杏奈ちゃん。もう二度と会わへん、金髪ばあちゃん佳代さんからの贈り物や」
杏奈ちゃんの眉が、きゅっと悲しげに歪む。
「最後みたいに言わんといてよ。連絡先、交換しようよ。また遊べばええやん」
優しい彼女の申し出が心から嬉しい。けれど、私と彼女では速度が違う。
「昨日も言うたけど、私らは速度が違うから。気を遣ってもらうことのほうが増えてしまう」
「別に、佳代さんがちょっとくらい歩くの遅くても、平気やし」
拗ねたように言う彼女が可愛い。
「杏奈ちゃんはええ子や。これから友だちとして、きっと長く付き合ってくれると思う」
このアクアマリンという不思議なゲストハウスの空気の中で、友だちになれた。
それが私にはとても尊かった。
そしてこの思い出を、綺麗な宝石のまま置いておいてほしいと、私は願ってしまうのだ。
「でも勝手なんやけどな、私は杏奈ちゃんの中でかっこええ金髪ばあちゃんのままでおりたいんや」
「たった二日だけの、友だちってこと?」
「そんなわけない」
私は大きく横に首を振る。
「私らはもうずっと友だちや。だからもし、何かの条件がばちっと合ったとき、また会おう」
杏奈ちゃんは目尻に少しだけ涙を浮かべながら微笑んだ。
「なにそれ、佳代さんエモすぎ」
「私らの時代では、粋っていうんや」
タクシーがアクアマリンの前にやってくる。彼女に向けて片手を上げた。
「ほな、先行くわ。元気でな」
ネックレスの箱を胸に抱いた杏奈ちゃんの黒髪が、海風になびく。
「ありがとう、佳代さん。『勇敢』の石をお守りにして、がんばるわ!」
ニッとフレッシュなオレンジみたいな笑顔の彼女に大きく頷いて、私はタクシーに乗り込んだ。彼女が休み明けに困難に立ち向かう時、そのネックレスがやさしい彼女を守ってくれるよう切に願う。
タクシーが走り出す。
杏奈ちゃんの黒髪がどんどん見えなくなった。喉の奥に少し涙の味がしたけれど、飲み込んだ。
私はスマホを取り出して、電話をかける。
「あ、もしもし、はーちゃん? 今から帰るんやけどな、家に寄ってええか? お土産話がいっぱいあるんや!」
タクシーが海沿いの道を走る。
瀬戸内の海の水面がきらきら光ってとても、綺麗だった。




