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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第一章 道が現れる解読謎解き

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 時間通りに戻ってきた杏奈ちゃんと一緒に港へ戻る。小腹が空いたので、港の近く、老舗の貫禄のあるかまぼこ屋に寄った。

 私は旅先で食べるさつま揚げに目がないのだ。

「うわぁ~こういう店、友だちと来ないから新鮮やわ、めっちゃおいしそう」

 小さな商店の店内に満ちる揚げ物の香ばしい匂いを嗅ぎながら、杏奈ちゃんが棚に並ぶ数々の揚げ物をしげしげと眺める。

「好きな天ぷら選びや。買ったるわ」

「天ぷら? 天ぷらって、ふわふわの衣ついてないで?」

「こういう魚肉の練り物の揚げ物も、天ぷらって言うんや」

 杏奈ちゃんは派手な睫毛がついた目をぱちくりさせてから、長い髪を輪ゴムでまとめ始める。

「へぇ、そうなんや。天ぷら、楽しみやわ」

 食べ物につかないように髪を扱う所作に、彼女の美点が表れているように思う。

 私は海老と青しその香り揚げ、杏奈ちゃんは紋甲イカの青ネギ天を選んだ。店内のテーブル席に座って、備え付けの緑茶とともにいただいた。

「うわ、うっま、イカ天最高やん」

 一口食べて気に入ったのか、杏奈ちゃんはぱくぱく食べ進める。彼女の食べっぷりに満足しながら、私ものんびり海老と青しその相性を楽しんだ。

 二人で温かいお茶を飲んで一息つくと、杏奈ちゃんがぐいと私に顔を寄せる。

「佳代さん、心くんの謎解きの答え、わかった?」

「私なりの答えは見つけたで。杏奈ちゃんは?」

「うちも、これかなーってのはある」

 杏奈ちゃんの笑みはどこか清々しく、昨日の気張った感じが抜けていた。

「教えてや。端の島で、何が見えたん?」

「なんもなかった。佳代さんと一緒に見た砂の道が続いていて、端っこは島。瀬戸内海が広がってた。でもさ、青空の下の砂の道歩いてたらさ~、この道って今朝はなかったんやなぁとか考えて」

 遠くを見る目をする杏奈ちゃんが小さく言う。

「謎解きのとき、自分で言ったこと思い出したねん」

 今朝の謎解きのことを考えてみるが、杏奈ちゃんの言葉までは思い出せなかった。

「なんて言うてた?」

「うちはもうちょっとだけ粘りたい。諦めるのは、まだ早いって」

「あ、言うてたな。見ようとせんと、見えへんとも言うてたわ」

 杏奈ちゃんは私の目を見て微笑んだ。

「黒島ヴィーナスロードと一緒で、粘ったら道が現れるのかもしれんなって、思ってん」

 彼女は一口お茶を飲み、喉をこくりと鳴らしてからはっきりと言った。

「うち、トぶのはやめる。クレーマーのじいさんにちゃんと謝って、もうちょい粘るわ」

 私もお茶をすすり、彼女が自分で見つけようとしたからこそ見つけた道を、味わう。

 杏奈ちゃんは決めたのだ。

 偉いなと、頑張れと、背を押してやりたくなった。けれど、そんなことをしなくても彼女はもう見つけた道を行くだろう。

「それが、杏奈ちゃんの謎解きの答えなんやな」

「うん、今度は佳代さんの番な。天ぷらおかわりしていい?」

「もちろんや」

 くすくす笑って私たちはそれぞれもう一つ、天ぷらを買って座った。今度はイカ墨チーズ天だ。

「杏奈ちゃん、私はな、自分から会いに行くっていう道を見つけたんや」

「はーちゃんにやろ? ええやん」

 牛窓キャベツ棒をかじる杏奈ちゃんが、ふふっと笑う。二人で並んで座り、もぐもぐ口を動かしながら私はまた閃いた。

「はーちゃんに会いに行こうと思ってたんやけど、それだけで終わったらあかんわ」

「どういうこと?」

「イギリスに娘がおるんや」

「え、まさか」

 杏奈ちゃんがキャベツ棒を口に運ぼうとする手を止める。

「私は歩けるうちに、イギリスにも行くわ。娘にも会いに行く」

 みるみる目を見開いた彼女は大きな声で言った。

「ええやん! 金髪ばあちゃんのイギリス一人旅、最高にエモいわ!」

「せやろ! これやわ!」

 二人で大盛り上がりして天ぷらを美味しくいただいてから、店を後にした。



 タクシーを拾うまで、私たちはアクアマリンを目指して、のんびり並んで歩いて帰る。

 杏奈ちゃんはこんな歳の私が掲げた大きな目標を、一瞬も否定せず、笑ってくれた。

 黒髪をなびかせながら見せたその笑顔は、ゆるく背中を押してくれる、瀬戸内のやわらかい風みたいだ。

 それが私にとってどれほど大きな贈り物であったか、彼女は全く知らない。

 それがまた、最高に素敵だ。

 道を歩きながら杏奈ちゃんが首を傾げる。

「っていうか、二人とも答え全く違うけど。謎解きを出した心くん的に、答えってなんなんやろ?」

「心くんに正解を聞かなあかんな」

 杏奈ちゃんと一緒にアクアマリンへ帰ると、心くんが迎えてくれた。

「おかえりなさい」

 夕陽の色に染まったリビングのテーブルの上には、ビーズのような小さな石や工具などが散らばっている。杏奈ちゃんがまじまじとテーブルの上を観察する。

「心くん、何してたん?」

「これを作っていました」

 心くんは薄青色の宝石がついたバレッタを、手のひらの上に置いて見せる。

 夕陽の反射で輝くパールと、やわらかい青色の宝石、アクアマリンに、チェコガラスが添えられたバレッタ。金色の土台に載っていて、品があるデザインだ。

「へぇ、これ心くんが作ったんか? すごいやん」

「こちょこちょと手先を動かすのが好きなんですよ」

 杏奈ちゃんがぽんと手を叩く。

「あ、じゃあ謎解き作りも、ハンドメイドのひとつってことか」

「たしかに、そうかもしれません」

 心くんの許可をもらってバレッタに触れると、これを持って帰りたくなってしまう。

 この旅のお土産はこれがいい。

 だってこれは、品よく笑っていつも髪に気を遣うお洒落なはーちゃんによく似合うはずだからだ。

「心くん、これは売り物か? お土産に買いたいんやけど」

「ありがとうございます。これは作りかけですが、完成品が受付のガラスケースの中に色々とありますので、見ていってください」

 ガラスケースの前で、杏奈ちゃんとどれにしようか話し合う。

「私は、はーちゃんにバレッタやわ」

「うちはこのシンプル可愛いアクアマリンネックレスが好きやな!」

 アクセサリーを前にはしゃぐのは、いつまでたってもやめられない。心くんにガラスケースから出してもらったネックレスを首元につけ、アクアマリンをまとう杏奈ちゃんは、少し大人びて見えた。

「青い石がよう似合うわ」

「えーほんまに? え、でもこれめっちゃ高いやん!」

 値段を確認した杏奈ちゃんがぎょっとする。本物のアクアマリンが、そこそこの大きさのものがついているのなら、値が張るのは当然だ。

 心くんがはーちゃんへのお土産を丁寧に梱包しながら静かな声で言う。

「アクアマリンは昔の船乗りの、お守りだったと言われています。荒波に向かうお守り石なので、石言葉は『勇敢』だそうです」

「そっかぁ。なんか、ええな……でもこの値段は出せんわ」

 杏奈ちゃんは現実的な金銭感覚で、ネックレスを外して心くんに返す。彼はそれを受け取ってしまい、今度はアクアマリン色の包装紙で包んだ箱を私に手渡す。

「そしてもうひとつ、アクアマリンは『幸福に満ちる』という意味も持っています。きっと荒波を乗り越えた船乗りたちが、そう感謝したのだろうと思います」

 彼の微笑みと小包を胸に抱いて、私はすでに幸福に満ちた思いだ。この満ち足りた気持ちで、彼に答えを聞きたくなった。

「心くん、謎解きの答えなんやけど」

「そうそう、その話! 正解は何?」

 心くんは杏奈ちゃんが外したネックレスを、木箱に収めながらやさしく笑う。

「そのお話は、もうお二人でされたのではないですか」

「え、なんでわかるん?」

「お二人がとても楽しそうに帰ってこられたので、ココロの謎は解けたのではないかなと思って」

 私と杏奈ちゃんは二人そろってぽかんとしてしまう。心くんの先読みはなかなか鋭い。

「僕、『場所の力』ってあると思っています」

 彼は夕陽のおかげで、やんわりと橙色に染まるリビングの吹き抜けを見上げる。

「ここ、アクアマリンは、窓から見える海や瀟洒しょうしゃな家具、インテリア全体でお客様のくつろぎを支えているつもりでいます」

 心くんが言うように、このゲストハウスに来た時点ですでに、私のしおれていた気持ちは少し上向いた気がする。

「僕は瀬戸内の海と風に彩られた、この岡山という土地の力をすごいと思っていて。だから、謎を解きたいと願うお客様には、おすすめの場所を紹介しているんですよ」

 岡山は雨が少ないため、晴れの国と呼ばれている。

 この土地にある晴れの力を尊ぶ心くんだからこそ、あの謎解きが生まれるわけか。

「うーん、パワースポット的な話?」

「その解釈もいいですね」

 杏奈ちゃんが小首を傾げたところで、心くんはくすりと笑う。

「というわけで、僕が用意した二つ目の謎解きに答えはありません。悩み(なぞ)の答えは、この土地を歩いて、何かを受け取ったお客様が決めるものですから」

 さらっとそう言った心くんは、丁寧に礼をしてからキッチンへと引っ込んだ。リビングに残った私と杏奈ちゃんは、顔を見合わせ、噴き出すように笑った。

「えーめちゃくちゃズルいんやけど~!」

「ほんま、謎は解けたけど、心くんには負けた感じやわ」

「ってか、心くんが出す『ココロの謎解き』って名前、深すぎん?」

「ほんまやで、心くんは意外と策士かもしれんな」

 私たちはころころした笑い声を広い吹き抜けのリビングに響かせた。


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