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ココロの謎解き、ご用意します。  作者: ミラ
第一章 道が現れる解読謎解き

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6

 アクアマリンからタクシーに乗って十五分で、船の待つ場所にたどり着いた。

「佳代さん、船は酔えへん?」

 港で隣を歩く杏奈ちゃんは、私の年齢を鑑みて体調を気遣ってくれているのだろう。それに、さりげなく私の歩幅にまで合わせてくれている。

「大丈夫や」

 意外だと言うと怒られるかもしれないが、きめ細かな彼女の配慮に嬉しくなる。杏奈ちゃんと私ではいろんなことのペースが違う。けれどそれをわかっていながら嫌がらず、なんの押しつけもなく、彼女は優しい。

「ほな、いこっか!」

 二人で心くんの采配通りに小さな船に乗り、日本のエーゲ海と呼ばれる穏やかな瀬戸内の海を進む。青天の下、船旅は短く、わずか十分程度で黒島に到着だ。

 島に到着して、小島三つを弓なりにつなぐ砂の道の前に立った。

「ふわー……すご……」

 あれやこれやとお喋りが止まらなかった杏奈ちゃんが、その光景を前にふっと止まる。

 秋の高い空の色と、瀬戸内海のアクアマリン色の海。

 そこにぽっかりと浮かぶ鮮やかな緑色の島と、その島めがけて曲がってつながる砂の道とのコントラストが、まるで絵はがきの中のようだ。

 海に浮かぶ道は神秘的だ。

 だが砂の道は思ったよりも狭く、人が三人並べば、もう海へ落ちてしまいそうである。

 杏奈ちゃんと一緒に砂の道を進むと、ゆるい潮風が吹いて心地よい。

 島と島のちょうど真ん中まで進んで、杏奈ちゃんがぱっと両手を広げて空を見上げる。

「すごっ! うち、海の中に立ってるで!」

 くるんと振り返った杏奈ちゃんが光を宿した目で笑う。私も頷く。

「せやな、こんなに海の真ん中に立つこと、まあないな!」

 二人で興奮しながら、あらゆる角度で写真を撮り、最後には二人で自撮りをした。撮影したツーショットを見ながら、杏奈ちゃんはにやにやしている。

「おばあちゃんが、流行りなんやろ? これも流行るんか?」

「金髪ばあちゃんと、ヴィーナスロードとかエモすぎ」

「エモい?」

「心がぎゅーんって動くってことや!」

 ニシシと歯を見せて笑う杏奈ちゃんがスマホを閉じて、さっさと歩き出す。

「佳代さん、三つ目の島まで行くやろ? 急がな時間ないで!」

 船の迎えの時間が決まっているので、砂の道と島を歩いて、端っこまで行くのはなかなかハードな行程だと思った。

「杏奈ちゃん、悪いけど一人で行ってくれるか?」

「え、しんどい?」

 彼女は察しがいい。

「さすがに時間制限あるなかで、私は端までいかれへんわ。でも端がどんなんやったかは知りたいから、行って、見てきてくれるか」

「でも、置いて行くのは……」

 少し眉を下げて、しょんぼりしてしまう彼女が愛らしい。

「ええんや。私と杏奈ちゃんは歩く速度も、生きる速度も違うんやから」

 やわらかい潮風の中で、彼女を好きだなと思う気持ちが穏やかに育つ。

「でもな、なんでも一緒にするだけが友だちやない。お互いに見たものや考えたことをこうやった、ああやったって、後で言い合うのも楽しいやろ?」

 自分でそう言ってから気づく。

 もしかしたらはーちゃんも私に、こう言いたかったのかもしれない。

 杏奈ちゃんのふわりとカールした黒髪が、瀬戸内の風になびいて揺れる。

「わかった。心くんの謎解きの答え合わせ、後でしような!」

 彼女は歩きにくい砂の道をしゃきしゃきと歩き、背中がどんどん遠ざかる。

 彼女が歩いていく様は若くて、綺麗だ。

 私は彼女の背中を微笑みながら見送り、やわらかくあたたかい風を受けながら、海の上に立って、心くんの謎解きを考える。

 同じ船で来た他の観光客たちも、杏奈ちゃんと同じように端を目指していってしまった。私は来た砂の道と、行く砂の道の真ん中で立ち止まって、深く呼吸をする。

 潮の香りが鼻を満たし、風と、さざ波の音が混じる。

 どこまでも一人きりの海の上だと感じた。

「私は……ひとりやな」

 はーちゃんから電話をもらったあと、痛感した。

 私はどこまでいってもひとりだ。

 たぶんそれはもうずっと変わらない。けれど、曲がりながら伸びる砂の道の上にいると、私は前へ行きたくなった。

 杏奈ちゃんのように、もう遠くへはいけない。

 けれど遅くても、私の足は一歩、一歩、まだ歩ける。

 私は空の青と、海の青の真ん中をひとり歩く。

 たぶん、はーちゃんとはもう一緒に歩けない。

 そう思うと、つと、頬を涙が伝ってしまう。

 でも私は歩いて、歩いて、次の島へたどり着いた。

 空を見上げると、飛行機雲が一筋、空色を切り裂いていく。

「あれもまた、道やなぁ……」

 普段は見えないけれど、条件が揃うと現れるヴィーナスロード。飛行機雲も、ある条件のときにだけ現れる雲の道だ。

「綺麗やわ……海の道も、空の道も」

 また一筋、頬を伝う涙の道ができる。

「いろんな道があるんやって……そう、言いたいんちゃうか、心くん」

 ぐいと袖で涙を拭いて、二つ目の謎を解いた。

 本当ははーちゃんと海の上を歩きたかった。

 けれどもう無理なら、まだ歩ける私が歩こう。きっとそれも、道になる。私はスマホでたくさん青い写真を撮った。飛行機雲もたくさん。

 彼女が出かけられなくなっても、会いに来てくれなくなっても、拗ねなくていい。この写真を持って、私がはーちゃんに会いに行けばいいのだから。

「お互いに考えたことを、ああやったこうやったって言い合うのが友だちやからな」

 ドタキャンで、まるで友だちを失ったかのように感じてしまった。

 けれど、私たちはゆっくりと、ただ変わっていくだけだ。

 会うための条件が、道が現れる条件が、変わっただけ。

 私は私の速度で、時間に間に合うように、来た道を戻り始める。

 砂の道をザクザクと踏みしめながら前を向くと、瀬戸内の風が私の金髪の前髪を持ち上げる。

 私はふわりと微笑みながら、砂の道を歩き切った。


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